Risk Oversight vol.74 自信を持って変化に対峙する 急速に変化する事業環境においては、上場、非上場、非営 利を問わず、どのような企業も自信を持って変化に対峙す ることが大切です。 以下では、自信を持って変化に対峙す るための要素について検討します。 多数の業種にわたる275 名の取締役と上級経営者を対象とし て実施したグローバル・サーベイにおいて、上位 10 位に挙げら れたリスクの 1 つは、変革への抵抗があるがゆえに、企業がビ ジネスモデルと中核的業務に対して必要な調整を十分に行え ないかもしれないというものでした。1 これは重要な示唆を提供 しています。変革は不可避であり、必要です。なぜならば、組 織が製品やサービス、プロセス、能力について継続的な改善を 行わないとすれば、より適応性に富む競争相手との間に深刻 なパフォーマンス・ギャップが生じるからです。 変化は、企業価値を高める機会であると同時に、企業価値を 損なう脅威でもあります。変化が企業の戦略やビジネスモデ ルの基本的な前提事項を覆しかねない場合には、変化は破 壊的となる可能性があります。従って、組織は変化を予期し、 それを受け止めることが求められます。変化が継続的かつ破 壊的な時代にあって、先をしっかりと見通することができる企業 が生き残り、繁栄する見込みが最も ゆるやかに進行する漸進的な変化を識別する 変革プロセスにおいておそらく最も重要な側面は、変革の必 要性を生じさせる機会または課題を正しく診断することです。 自信を持って診断が行われるのであれば、必要な変革に対応 すべく適切なリソースを配分できると、ほとんどの管理者は考え ます。 変革には小さなものと大きなものがあります。小さな変革は通 常、ビジネスプロセスのゆるやかな改善をもたらします。業務 面や財務面でのパフォーマンスが、品質、時間、コストおよびイ ノベーションにおいて不十分な場合、付加価値を生み出さな い活動を排除し、最適ではないプロセスを強化するために、焦 点を絞った対応が行われることになります。 ゆるやかな変化は、法律や規制、契約、および社内方針の見 直しから生じるものであるかもしれません。あるいは、顧客や 従業員の満足度の改善に焦点を当てたものであるかもしれま せん。変革の原因が何であるにせよ、そのような変革は事業 目的を達成するプロセスの継続的な改善につながります。 変化に対応する場合、変化の兆候のみならず、その根本的な 原因に焦点を当てることが重要です。根本的な原因とは、不 十分なプロセスや望ましくない結果をもたらす状況あるいは一 連の事象です。根本的な原因は、市場で受け入れられつつ ある新たなテクノロジ、ないしは製品、サービスおよび顧客体験 を改善する具体的な機会といった、外的要因であることもあり ます。あるいは、根本的な原因は、分かりにくい方針、プロセス またはシステム不全、ないしは不十分なトレーニングであるかも しれません。 根本的な原因分析は、除去すれば業績乖離などに対して改 善がもたらされるような根本的な源泉を明らかにするために、シ ステムとプロセスを対象として実施されます。機会もしくは課 題について十分な理解と定義を行った上で、関連するデータ が収集・評価され、根本的な原因と思われる事柄が特定されさ らに体系的に軽減され、根本的な原因をその源泉において除 去するための是正措置が策定されます。結果については継 続的なモニタリングが行われ、満足な結果が得られるまで繰り 返しこの手法が適用されます。 破壊的な変化の識別 飛躍的な改善は多くの場合、破壊的なものです。今日、管理 者は、ビジネスモデルや業界全体に対する破壊的な変化に直 面しています。以前は破壊的なイノベーションが業界を一変 させるのに10 年もしくはそれ以上を要していたかもしれません が、その時間はどんどん短くなっており、対応に残された時間 はほとんどなくなってきていることが、研究により示されています。 デジタル化により一層激化する競争環境において、ビジネスモ デルを維持するためには、変化を先取りする継続的なイノベー ションが求められます。 世界の形を変える強力な要素の出現により、リーダーは消費、 資源、労働、資本、競争、その他に関する意思決定の前提事 項について再考を余儀なくされています。グローバルに4 つの 破壊的な要素が存在し、それらが一体となって根本的に異な る世界を形成しつつあるという考え方があります。 経済活動の新興市場および新興市場内の都市への移 行─ 2010 年から2025 年までの世界の GDP増加の半分 近くは、新興市場にある440の都市にから生じると見込ま れている。これらの都市の95%は、現在はよく知られてい ない都市である。 テクノロジの範囲、規模および経済的影響度の加速度的 増加─テクノロジを通じた処理能力とコネクティビティは常 に現状をひっくり返す主要な要因であり、急激に増幅して いる。また、データ革命が同時に起こっており、より便利な 形で消費者と企業に前例のないほど大量の情報が提供 されることにより、データ分析や事業運営、消費者のニー ズの充足について新たな方法が生み出されつつある。 変化する人口動態─出生率が低下する一方、高齢化が 進行している。2013 年においては、世界の人口の60%が、各世代の人数を維持するために必要な出生率が維持さ れていない国々に住んでいる。5 この傾向が衰えないとす れば、途方もない帰結がもたらされる。 貿易と資本の移動、人と情報の流れを通じた世界のつな がりの増加─世界とのつながりが重要であるのは、それに よって競争の状況が変わるからである。市場における地 位が確立している企業は、どこからでも入ってくる可能性 のある新規参入企業に備え、新しいグローバルな事業体 制を構築し、より機動的に対応しならなければならない。 現実は明らかです。破壊的変化に先んじるためには、事業の リーダーは変化の重要な兆候と、ビジネスモデルに対する影 響を迅速に認識しなければなりません。そのためには、事業の リーダーは以下の4つの事項を的確に行わなければなりません。 ビジネスモデルの重要な前提事項を理解する。 一つまたはそれ以上の重要な前提事項を無効にする可 能性のある、起こりうるかつ極端な事象もしくは複数の事 象の組み合わせを評価するために、逆説的な分析を行う。 重要な兆候に焦点を当てたコンペティティブ・インテリジェ ンスの活動を行う。 前提事項、シナリオ分析および情報収集に関する情報を 適時に入手し、それによって得られた洞察を意思決定者 に報告する。 変化をもたらす市場トレンドは、確立したビジネスモデルにとっ て著しく破壊的なものとなりえます。この常に変化が生じてい る環境においては、現状維持に未来はなく、その有効期限は 限られています。上級経営者と取締役は、目の前で生じてい る大きな変化の影響を認識するために必要な洞察が自らに備 わっている、との自信を持つ必要があります。 変化に対して行動する 急速に変化する環境においては、対応するための時間は貴 重な資産です。対応するための時間が確保されるのは、業績 に関する課題や市場の機会、新たなリスクが適時に認識され、 それらの企業のプロセスとビジネスモデルに対する影響が理 解されている場合です。対応するための時間があれば、不満 足な業績と新たなトレンドの影響について、冷静な評価を行う ことができます。時間が確保されなければ、対応が遅きに失し、 あわただしく評価が行われることになります。必要な時間を確 保することによって、意思決定者は行動の選択肢を自信を持っ て策定することができます。 残念なことに、行動するための時間を確保しても、それが浪費 されてしまうことがあります。業績が低迷していることや、新た な機会あるいはリスクが存在することを認識していても、それを プロセスと製品を改善するための厳しい選択と実行可能な計 画に落とし込まなければ、そのような認識はあってもなくても同 じことになってしまいます。対応が適時に行われるよう、経営 者は以下の事項を行う必要があります。 業績低迷の原因特定と、市場の現実の変化がビジネスモ デルの重要な前提事項に対して与える影響の検討を促進 する企業文化を醸成する─事実に基づく管理を行い、プロ セスオーナーとステークホルダーに権限を与えることにより、業 績低迷や傾向値が重要な変化の兆候を示している場合に は、ビジネスプロセスの継続的な改善が推進されるでしょう。 市場の変化については、事業間の継続的対話、短長期の 業績目標と整合性の取れたインセンティブ報酬、上級経営者 の関与、および取締役会の積極的な支援によって、変化の 原因と影響を理解するという望ましい文化が形成されます。 根本原因の分析と見直し後の前提事項を、戦略、事業およ び製品計画ならびにプロセス改善に関する実行可能な計 画に落とし込むように管理者を動機付ける─市場の現実 の変化に対する感応性を高めることになく、収益を最大化 するというような歪められたインセンティブは、組織の中に深 刻な盲点を生み出す可能性があります。 組織的な弾力性を高める─急速に変化する世界において 現実から目を背けることは致命的です。企業が破壊的な 変化への対応を行わないとすれば、本当の状況についての 見解を持っていないことになります。このような機能不全は、 弾力性を高めないようなインセンティブや、顧客を理解しな かったり、事実に基づいた管理を行おうとしない経営者から 生じるのです。 要約すると、自信を持って変化に対峙するとは、認識された業 績上の課題や市場の機会と新たなリスクに対応するアクショ ンに関する意思決定プロセスの短期化を意味すると言えます。 破壊的変化は諸刃の剣であり、大きな機会とリスクの両方をも たらします。破壊的変化への対処において勝者と敗者を隔て るのは、重要な兆候を認識し、自信を持ってそれを行動に移す という能力です。 変革プロセスを管理する 製品、サービスおよびプロセスの改善と新たな戦略的イニシア ティブの実行は、組織の体制や文化、行動哲学と整合性のあ る、焦点が定まりかつ規律の取れたアプローチを必要とします。 継続的もしくは飛躍的な変革を自信を持って可能とするため には、上級経営者の積極的な参画が必要となります。最高経 営責任者をはじめとする上級経営陣は、変革の勢いを作り出 し、継続する行動計画の実行に対する揺るぎない支援を行う ことが求められます。変革実行チームは、上級経営者の支援 を得て、なぜ変革が唯一の選択肢であるのかを明確に説明し、 説得力のある共通のビジョンを示した全体像に焦点を当て、現 実的な目標を設定し、明確な行動計画を策定し、定期的に達 成度の確認を行う必要があります。 上級経営者の支援に加え、変革の影響を最も受ける事業部 門のリーダーや業務担当者、プロセスオーナーといった重要な ステークホルダーは、変革を自らのものと捉えなければなりませ ん。彼らの合意を得るには、まずは上級経営者が支援してい ることを示すことです。また、変革を実現する上で彼らの利益 と企業の利益が表裏一体であることについて、彼らに納得し てもらう必要があります。 組織全体の主要なリーダーの支援を得た上で、実行チームは 結果に対する説明責任を明確にし、変革への取り組みにおけ る「人の側面」に焦点を当て、組織、プロセスおよび個人の業 績指標の整合性を取り、変革のプロセスと企業文化との整合 性を確保すべきです。 上述の変革を可能にする手法が効果的に実行されることによ り、期待される結果を達成できるという自信と共に、継続的な変 革がもたらされます。これらの手法が実行されない場合には、 おそらく何も起こらないでしょう。 日本語版PDF 英語版PDF 取締役会の考慮事項 以下は、事業体の活動に内在するリスクに関連して取締役会 が考慮すべき事項です。 変革を生じさせる真の機会あるいは課題を想定する際に、経営者が事業を取り巻く状況について検討し、根本的な原 因を理解し、事実に基づいて管理を行っていることを、取締 役会は確認しているか。経営者は、変化に伴う真の機会と 課題を識別するために行う事実確認と分析プロセスにおけ るバイアスの影響を低減しているか。 経営者は、許容しえない業績の変動の根本的な原因を適 時に認識しているか。破壊的な市場の力から生じる新た な市場の機会と新たなリスクに関する重要な兆候について、 モニタリングを行っているか。経営者は、変革が必要である ことを理解し、適時に行動しているか。 行動することが決定された場合、変革を可能にする有効な プロセス、つまり主要な人材が変革の必要性について理解 し、変化を自らのものと捉えるプロセスが存在しており、かつ 経営者と取締役会は変革が継続可能なものであるとの自信 を持っているか。 プロティビティの支援 プロティビティは、上場および非上場企業の取締役が組織の 重要なリスクを識別し、管理するのを支援しています。プロティ ビティは、企業の内部からの視点とは異なる、経験に基づいた 偏りのない見解と、企業が直面するリスクの特徴に整合した分 析的評価アプローチを提供しています。 全ての関連情報は こちらへ