Risk Oversight vol.9 (日) 「トップの姿勢(Tone at the Top)の重要性」

リスクマネジメントはそれ単独で機能するものではありま せん。リスクマネジメントには確認・情報提供・助言・監視・ 測定ならびに取捨選択といった機能がありますが、最終 的にコントロールや決断を行うのは、リスクマネジメントで はなく、経営者の役割です。

​企業方針・規範ならびに設定されたコントロールと、重要 な時にこれらを適用する規律は、経営者にとって重要な ことです。また、リスクの選好についても取締役と経営者 が意識を共有していることが重要です。企業価値を守 るための注意を払う有効な内部環境がなければ、企業 はただ無謀なリスクテイクへと暴走しかねません。

企業の内部環境とは、具体的には統制環境、業務管理 のスタイル、報酬構造、倫理的かつ責任ある企業行動の コミットメント、オープンで透明性のある報告、明確な説明 責任、企業文化などを言います。これらの要素があい まって、企業の「トップの姿勢(tone at the top)」に影響 を与えます。

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重要な検討事項

経営トップに確固とした姿勢があってこそ企業の継続的 発展が可能となり、そうして初めてリスクマネジメントも効果 を発揮します。リーダーシップが欠如していたり、機能を阻 害するような行動様式をひきおこす組織の致命的な欠陥 に気が付かないと、どれほど立派なリスクマネジメントであっ ても、弱体化してしまいます。許容できないリスク事象の発 生を防止したり、絶えず変化する事業環境の中で新たな潜在的リスクを発見する上では、企業文化が重要な要素 となります。また、第三者がわかるような問題の兆しが明ら かであったにもかかわらず、経営陣がそれを見落として問 題が起きた場合には、根本的な原因に注意を向けること が必要です。

リスク監視プロセスにとって、確固としたトップの姿勢が重要 です。以下は、企業内部に潜在的な問題があることを示 す兆候です。

  • 経営陣が戦略的事項や重要な方針について、適切 な時期に取締役会に諮っていない。
  • 事業戦略や事業計画の変更、新市場への進出、新 製品の投入、新しいビジネスラインの買収などを行う 際に、経営陣がリスクを明確に検討せずに進める。
  • リスクマネジメントは業績管理上の「おまけ」として扱 われているにすぎず、現存のリスクの変化や将来のリ スクの発生に無関心である。
  • リスクマネジメントの責任の所在が明確でなかった り、報酬システムに関連づけられていない。さらに悪 い場合は、報酬システムが押さえの利かないリスクテ イクを後押ししている。
  • 企業の内部に、不適切なリスクを引き受ける風土を 促進する不健全な競争があったり、非現実的な目標 に対するプレッシャーが存在する。
  • 短期に利益を上げようと視野狭窄になり、戦略の前 提に影響を与えたり、新しいリスクが生じる事業環境の変化を見落としている。
  • 一部の社員が予想できないような大きな利益を上げ ているが、どのように上げているのかわからない。
  • 市場の現状に対応する戦略の見直しの必要性を示 す事実に耳を貸さない独裁的経営者等、経営陣が 悪い知らせに耳をかさない。
  • リスクが存在することがわかっているにもかかわら ず、対処する責任の所在が定まっていなかったり、重 複している。
  • 重要な事業遂行に際して利益相反があっても許さ れる。

トップの姿勢は、企業の価値創出と企業価値の保護を両 立させるものです。たとえば、経営者の関心が月次・四半 期の短期的なものにしかなければ、企業は長期的には不 利益となるリスクを引き受けることになりかねません。価値 創出と価値保護を両立し、長期的・短期的目的を達成す るということは言うは易しですが、行うには有効なリーダー シップと規律が必要となります。

自企業のリスクの性質に照らし、取締役会は以下の事項 を検討するとよいでしょう。

  • 実現不可能な戦略、不適切な業績プレッシャー、非 現実的な拡張計画、近視眼的視野、上司に対する ご機嫌とりの横行、数値化できないリスクについての コミュニケーション不足など、問題の兆しの発生に対 して取締役会は注意を払っているか。
  • 未経験の新規事業に進出し、かつ関連するリスクを把握できていない可能性がある場合、取締役会は 監視を強化しているか。
  • 現行の報酬制度が、不適切なリスクテイクに結びつ いていないか。
  • 経営者は積極的なリスクテイクとコントロールのバラン スがとれており、いずれにも偏っていないことに納得 しているか。
  • 経営者は新しい事業機会を評価する際、明確にリス クを考慮しているか。
  • 重要な問題が発生する前に、適切なレベルで問題を 把握して対処する体制が整備されているか。

プロティビティは、全社的または事業別の企業戦略や事業 計画に内在するリスクの評価やリスク管理能力の評価な どの分野において、取締役会及び経営者を支援します。 評判やブランドイメージを損なう、ひいては企業戦略の遂 行の障害になりうるリスクの特定や優先順位付けを支援し ます。

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