Risk Oversight vol.7 (日) 「リスク監視の10の原則」

2009 年 10月に全米取締役協会(以下「NACD」という) が“NACDブルーリボン委員会報告書 ─リスクガバナン ス:リスクと報酬のバランス”を出版しました。この報告 書では、取締役会が企業のリスク管理の監視を強化する ための10の原則を推奨しています。

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主要な考慮点

報告書では、「委員会は、この10の原則は各企業固有の ニーズに適応し、取締役会がより広い範囲を対象とするリ スク監視システムを構築するための基本的な考え方を提 供していると確信している」としています。我々も、取締役 のためのガイダンスとして、これらの原則がリスク監視プロ セスを理解するための骨子になることに同感です。

原則 1と2は、企業戦略に内在するリスクに焦点を置いて いるため、特に重要と考えられます。取締役は、(ビジネス モデルに内在するリスクを含む)事業について理解し、リス ク許容量を理解し、経営者と合意することが不可欠です。 原則 3は、取締役会全体及び権限委譲された常設の委 員会におけるリスク監視の責任の明確化を、取締役が協 議する時に重要です。NACDのブルーリボン委員会(以 下「NACD BRC」という)は、「一般的に、取締役会全体 がリスク監視に対する一義的な責任を持ち、取締役会に 権限委譲された常設の委員会は個々の監視に内在す るリスクをサポートする」と主張しています。また、NACD BRCは、報告書の最後に、取締役会が直面する5 種類 のリスク、「ガバナンスリスク」、「重要な全社的リスク(企業戦略、及びビジネスモデルを脅かすリスク)」、「取締役会承認に関するリスク」、「事業管理リスク」、「新興の、こ れまでにないリスク(気候変動等)」について論じた上で、 経営陣と取締役会の責任を詳しく説明しています。

 

効果的なリスク監視のための 10 の原則

  1. 企業の成功を導くための主要な要因について理解 する。
  2. 企業戦略におけるリスクを評価する。
  3. リスク監視に関する取締役会全体と委任された常設 の委員会の役割を定義する。
  4. 企業のリスク管理システム ─人材と各種プロセスを 含む─ が適切であり、かつ、十分な資源を有している かどうか検討する。
  5. 取締役会が要求するリスク情報の種類(ならびに フォーマット)に関する理解と合意のために、経営陣と 協働する。
  6. 経営陣と取締役会の間で、ダイナミックかつ建設的なリ スクに関わる意見交換を行う。これには積極的な前 提条件の見直しを含む。
  7. 企業文化と企業の報酬体系に内在する潜在的なリス クを厳密に監視する。
  8. 戦略、リスク、コントロール、コンプライアンス、報酬、人材 の重要な連携を監視する。
  9. 次に起こり得る、新しいリスクを検討する。
  10. 取締役会のリスク監視プロセスを定期的に評価する。 つまり、取締役はリスク監視の目的を達成できているか?

出典:全米取締役協会『NACDブルーリボン委員会報告書─リスクガバナンス:リスクと報 酬のバランス』、2009 年 10月、第 4 章、14-19 ページより引用

原則 4の検討は重要と考えられます。なぜなら、一般的 にリスクは戦略の後からついてくるものであり、リスク管理 は業績管理に付加する業務と見なされることが多いため です。(NACD BRCはリスク管理が「サイド・アクティビ ティ」になっていると表現している。)この原則は、単なるリ スクの識別を超えて、方針、プロセス、人材、報告、報酬、 文化等の、リスク管理のさまざまな要素の妥当性を検討 することについて述べています。

原則 5は多くの取締役会にとって、共通の問題となってい ます。取締役が、目を通さなければならない報告書の量 の多さに圧倒される一方で、意思決定のための洞察力 のある情報の少なさに対し不満をもらしていることを我々 はよく耳にします。報告は、定量化モデルに一辺倒に依 存するのではなく、与えられたリスクに対して様々な見解 を提供することの重要性を検討すべきです。

原則 6では、取締役会と経営陣が、リスクの問題につい て積極的に関与していくことの必要性を述べています。 この原則における「前提条件の見直し」は、近年発生し た世界的な金融危機に照らして特に重要なポイントと考 えられます。結果的に、金融危機の結果として、取締役 が成功を導くための主要な変動要因を理解し、また、市 場の変化に対するこれらの変動要因の感度を理解して いるかどうかが問われています。

原則 7は、金融危機から学んだもうひとつの教訓に関連 します。企業文化や報酬体系が長期間にわたりリスクプ ロファイルに影響する潜在的なインパクトの重要性です。 原則 8で、戦略、リスク、コントロール、コンプライアンス、報 酬、社員の連携について述べ、これらの連携を行わない と、企業戦略と戦略の執行において食い違いが生じる 可能性があることを述べています。原則 9では、「次に何が起こり得るか」と質問しています。この質問の特徴 は予期に関するもので、現在経営者の視野に入っていな い新興のリスクを考慮するものです。最後に、原則10で、 取締役会による定期的な自己評価の実施をリスク監視プ ロセスのベストプラクティスとして推奨しています。

事業執行に内在するリスクの性質に照らして、取締役会 が検討すべき事項を以下に示します。

  • 取締役会はリスク監視の目的を明確に規定している か。
  • 取締役会は、リスク監視の目的を達成するために、リ スク監視プロセスの有効性を評価しているか。また、 取締役会は、定期的にこの評価の実施を計画して いるか。
  • 取締役会は、リスク監視の有効性を妨げるギャップに ついて、積極的に対応しているか。

プロティビティは、全社的または事業別の企業戦略や事業 計画に内在するリスクの評価やリスク管理能力の評価な どの分野において、取締役会及び経営者を支援します。 評判やブランドイメージを損なう、ひいては企業戦略の遂 行の障害になりうるリスクの特定や優先順位付けを支援し ます。

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