Risk Oversight vol.64 ​ 2015年の最重要リスク

ノースカロライナ州立大学 ermイニシアティブとプロティ ビティは、上級経営者を対象として、企業が直面するマクロ 経済、戦略、および業務リスクに関する最新の調査を完了し ました。2015 年の上位 10 のリスクは 2014 年と大き な違いを映し出しており、上級経営者や取締役が気に掛け ていることについて洞察を提供しています。

主要な事業上の課題に関する以下のサマリーは、約 275 名の 上級経営者(大部分はグローバル企業の経営者)を対象とし た調査に基づくものであり、2015 年に企業が直面する主要な 不確実性を理解する上での助けとなるものです。[1]

日本語版pdf         英語版pdf

以下に示す課題が該当するかや、それらの優先順位は、業種 や企業の規模・種類によって異なりますが、ここでは全体として のリスクの順位付けを行っています。昨年からの変化がわか りやすいように、昨年の順位を括弧内に記載しています。なお、「NR」は、昨年の調査では評点が付けられなかったリスクを 意味しています。

  1. 法規制や規制当局の監視強化が会社の製品やサービ スの提供方法に影響を与えるリスク(1)─ このリスクは、過去 3 年間に我々が行ったいずれの調査においても最上 位に位置付けられています。昨年に比べて評点はやや下がりましたが、このリスクは上級経営者が最も気に掛けているものであり、世界中の多くの業種においてビジネス モデルに対する規制のコストや影響が依然として大きいこ とを示しています。わずかな規制の変更ですら企業に多 大なコストを課す可能性があり、規制変更の脅威だけでも 従業員の採用や投資に関する意思決定において不確実 性を生じさせ得るものです。
     
  2. 現在のマーケットの状況が会社に十分な成長の機会を提供していない可能性がある(2)─ このリスクは前回の 調査と同じく第 2 位に位置付けられています。株式市場 は 2014 年の第 3 および第 4 四半期に大きく上昇しました が、不確実性は引き続き存在しています(例えば、不安定 な原油およびガス価格、ロシアに対する経済制裁が米国 と欧州の市場に与える影響についての懸念、中国経済の 減速に関する疑念、および 2015 年 1月に米国上院におけ る多数党が交代したことによる米国経済政策への影響)。 潜在的には、このリスクの順位付けは、「新たな常態(new normal)」に関する懸念ならびに企業のより低速な有機的 成長という環境下における事業運営に対する学習を示唆 しています。世界の地域間の経済成長に幾分のばらつ きが引き続き見られる中、今回の調査結果は、特定の市場 における2015 年の成長見込みには課題があるとの懸念 を映し出しています。事実、このリスクに評点を付けるにあ たって、経営者や取締役は、世界市場のどの地域におい ても経済成長の速度は劇的かつ急速に変化しうることに 留意していたとも考えられます。従って、企業は、新たな成長の源泉を掘り起こすために、新市場や顧客の要望に応 える新たな方法を積極的に捜し求めていくかもしれません。
     
  3. サイバー攻撃により中核事業が大きく混乱する、および/あるいは会社の評判が著しく毀損される可能性がある。 プライバシー・個人情報および情報セキュリティ・リスクへ の対応に十分なリソースが投入されていない可能性が ある(6)[2] ─ 主要な小売業者、グローバルな金融機関、お よびその他の著名な企業において発生した最近の重大 な情報漏洩によって、ほとんどの経営者は、サイバーリス ク事象が事業に対して影響を与えるかどうかの問題では なく、いつ起きるかの問題であることに気付かされました。 ほとんどの組織は今、グローバル戦略を遂行する上での テクノロジへの依拠に関する重大な脅威を認識していま す。ソーシャルビジネスやクラウド・コンピューティング、モバ イル・テクノロジ、その他の技術的発展は、費用対効果に 優れたビジネスモデルを創造し、顧客満足体験を増進す る上で大きな機会を提供しています。それらはまた、破壊 的な変化、プライバシーやセキュリティ・リスクの増加、そし てより洗練されたスキルと巧妙な計画を持った敵対者によ る有害なサイバー攻撃へのより一層のエクスポージャーを 生じさせるかもしれません。これらのテクノロジから生じる 新たな課題は、実際において、企業が管理すべき「移動 目標」を創り出します。
     
  4. ​後継者選定の課題や、才能ある人材の獲得やつなぎ留 める能力により、事業目標の達成に向けた努力が制約を 受ける可能性がある(4)─ このリスクは昨年と同じ順位のままですが、今年の全体的な評点は以前よりも高くなっ ています。企業が成長戦略を追求する中で、戦略を実 行するためには必要な知識、スキルおよび共通の利害を 有する人々が必要となります。しかし、多くの先進国では、 スキルを持った労働者不足が差し迫りつつあります。この リスクは、企業が対応すべき後継者問題として表れてきて います。企業は、将来組織をリードする可能性のあるより 若い世代の管理者の育成に重点をおき、彼らの中で最も 有望な従業員 -「Aプレーヤー」-をつなぎ留めることに焦 点を当てる必要があります。才能ある従業員をつなぎ留めるため、あるいは彼らの後任を確保するために、パートタ イム制や業務請負制といった、より柔軟性のある代替的な 雇用モデルを検討している組織もあります。
     
  5. ​組織の文化が、重要なリスク事項の適時の認識および報告を助長していない可能性がある(NR)─ このリスク は今年の調査から加えられたものです。業務、戦略およ びマクロ経済リスクに関する最重要の懸念が多数存在す るとの認識にもかかわらず、組織の各人がリスクに関する 懸念をリーダーに伝達するプロセスが整備されているとの 確信は全体的に欠如しているように見受けられます。リス クマネジメント、コンプライアンス、および責任ある企業行動 に関する組織のトップ、中間層および下部層の総体的な 姿勢が、組織におけるリスク事項の適切な者への適時の 報告に多大な影響を与えます。このリスクの評点が以前 と同様高いのはこのためであると考えられます。主要なリ スクの適時の認識と報告は容易ではありません。
     
  6. 変革に対する社内の抵抗が、ビジネスモデルと中核事業 に対する必要な調整を阻害する可能性がある(7)─  上級経営者は自らの組織が、変化に対して機敏で、適応性 があり、かつ強靭であることに高い優先順位を置いていま す。上級経営者は、市場機会を開拓し新たに生じるリス クに対応する先行者は、急速に変化する環境において生 き残り、繁栄する可能性がより高いことを本能的に理解し ています。しかし、組織を先行者たらしめることは容易で はなく、このリスクの順位は昨年よりも上がっています。
     
  7. 想定外の危機が組織に影響を与える可能性がある(10)─ このリスクの評点は昨年と比較して大きく増加していま す。これは、誇り高い、確立されたグローバル・ブランドが 想定外の危機に直面し、その後評判を大きく損なうという 事象が引き続き発生しているためである可能性がありま す。上級経営者と取締役は、危機の試練とは無縁の組 織は地球上に存在しないことに気づき始めています。こ のことが、リスクの理解と備えを行う必要性を必須のものに しています。メディア、特にソーシャルメディアのスピードと グローバルな普及のために、何十年にもわたって築き上げ られてきた評判は、一夜にして崩壊し得るものです。
     
  8. 顧客ロイヤリテイを維持することが、進化する顧客の嗜好や客先の地理的移行により、難しくなりつつある可能 性がある(NR)─ このリスクも今年の調査から加えられた ものであり、昨年の調査には含まれていませんでした。急速な変化と破壊的技術革新は、市場における劇的な変 化を生じさせています。顧客嗜好はこれらの変化に反応 して急速に移り変わっており、より低成長の環境における 顧客維持を困難なものとしています。顧客ロイヤルティの 維持は、新たな顧客の獲得よりも費用対効果に優れてい るだけではなく、ロイヤルティの高い顧客は、長い目で見て、 利益率のより高い商品やサービスを購入する可能性がよ り高いと考えられます。ロイヤルティの高い顧客によって、 マーケティングコストや顧客に商品やサービスを理解して もらうことに要するコストが削減されます。このため、顧客 ロイヤルティを持続させ顧客を維持することは、顧客志向 の組織にとって優先順位の高い事項です。
     
  9. 現行事業が競合他社のように品質、納期、コスト・技術革新に関連する期待に応えられていない可能性がある(10)─ パフォーマンス・ギャップを長期的にわたって放 置することは、致命傷となりえます。競争相手より劣るパ フォーマンスは持続可能なものとはなりえません。
     
  10. 新たなテクノロジにより組織のビジネスモデルが破壊的な影響を受ける可能性がある(10)─ このリスクは、昨年 の第 10 位の他のリスクと並んで、一つ順位を上げていま す。このリスクは、業界内における破壊的な技術革新お よび /あるいは新たなテクノロジのために、ビジネスモデル の大幅な見直しをなくしては組織の競争能力が維持でき ないというものです。多くの場合、このリスクの速度は大 規模災害ほどではありませんが、変革の波に乗り切れな い組織にとっては致命傷となりうるものです。

昨年上位 10 位に順位付けられたリスクの中には、2015 年の上 位 10 位から外れたものが複数あります。例えば、政治的リー ダーシップに関する不確実性によって成長機会が制限される というリスクは、昨年は第    3 位でした。今年の調査ではこのリスクは大きく順位を落としていますが、企業経営者が現代の地 政学的緊張や政治的膠着という現実に慣れてしまったことが その理由であるかもしれません。

グローバル金融市場および為替において予測される不安定 性が課題を生じさせるというリスクは、昨年は第 8 位であり、米 国における医療制度改革に係る法規に準拠するためのコス トに関する不確実性によって成長が制限されるというリスクは、 昨年は第 9 位でした。後者のリスクは、主として、多くの経営 者が医療制度改革のコストに対するエクスポージャーを限定 する方法に安心感を持ったことにより、順位を大きく落としてい ます。しかし、米国のヘルスケア業界は、今後数年間も医療 制度改革から生じる課題に直面し続けると見られます。 今回の調査におけるその他の主な気付き事項としては、今後 12 か月間に自らの組織はリスクの認識と管理により多くの時間 および/あるいはリソースを投入するとした回答者が、昨年と 比較して増加していることが挙げられます。

[1] 調査結果「Executive Perspectives on Top Risks for 2015: Key Issues Being Discussed in the Boardroom and C-Suite, Protiviti and North Carolina State University’s ERM Initiative」は、以下のウェブサイトから入手可能です
[2] 昨年および一昨年と同じく、今回の調査ではサイバー攻撃をプライバシー・個人情報 や情報セキュリティ・リスクとは分けて取り扱っています。また、過去における調査と同 じく、どちらのリスクも上位 10 位に含まれています。本資料を作成するにあたっては、 どちらのリスクも変化し続けるテクノロジの複雑性から生じる不確実性に起因するリ スクであるという理由で、これら2 つのリスクをまとめています。興味深いことに、収益 が 100 億ドルを超える企業においては、どちらのリスクも上位 5 位に含まれています。

取締役会は、企業の事業活動に固有のリスクの特質を踏まえ、 2015 年のリスク監視の焦点を評価する上で、上記のリスクを 検討すべきです。

プロティビティは、取締役会や上級経営者が全社的なリスクの 認識と評価を行い、それらのリスクを管理するための戦略と戦 術を実施するのを支援しています。プロティビティは、上場およ び非上場企業が、戦略設定や事業計画を含む中核となる事 業プロセスとリスク評価プロセスを統合するのを支援していま す。プロティビティはまた、企業の内側からの視点とは異なる、 経験に基づいた偏りのない見解を提供し、リスク監視プロセス に対してより情報をもたらすリスク報告の改善を支援しています。

全ての関連情報は

こちらへ
Loading...