Risk Oversight vol.63 取締役会のリスク監視の焦点を重要事項に当てる

多くの企業は、リスクに関する継続的な対話を促進するた めに、リスクに関する共通言語を用いたり、リスクの分類を 行ったりしています。取締役会のリスク監視に関しては、全 ての範囲をカバーし、監視プロセスの焦点を定めるために、 取締役は独自のリスク言語を用いるべきかという疑問が生 じます。それぞれの企業の取締役会は、そのようなリスク 言語が有益であるか否かを、企業の事業活動の特質を踏ま えて判断しなければなりませんが、以下では取締役が考慮 すべき5つのリスクカテゴリーについて考察します。

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取締役会によるリスク監視プロセスの焦点が定まっていないと いう懸念を、取締役や経営者から聞くことがよくあります。取 締役会がリスクマネジメントについて些細な点にばかり気を取 られていては、リスク監視プロセスの焦点は定まらず、有効性 を欠いたものとなります。また、取締役会のリスク監視プロセス が適切な課題に対応するためにはどうすべきかという質問をよ く受けます。この質問は、以下に挙げる3 つの点を含むいくつ かの理由により重要です。

  1. 取締役会によるリスク監視が重要なリスクに焦点を当てる ことにより、取締役は上級経営者に対して価値を提供する ことができる。
  2. 焦点の定まったリスク監視プロセスは、上級経営者の経 営手法とより効果的に歩調を合わせることができる。 
  3. 取締役会が適切なタイミングで適切な課題について情報を提供することにより、取締役会と経営者の責任を正確に 区分することがより容易になる。

取締役会のリスク監視プロセスの焦点を定めるためには、どう すればよいのでしょうか。

主要な考慮事項

全米取締役協会(NACD)が推奨する5つの広義のリスクカテ ゴリーは洞察を提供するものです。これらのカテゴリーは、業 種や組織的戦略、企業に特有のリスクに関わらず、すべての 企業に当てはまるものです。以下では、それぞれのカテゴリー について考察します。[1]

ガバナンスリスク─取締役会は定期的に、CEOの人選と報酬、 取締役会のリーダーシップと構成、取締役会の仕組み、そして 企業の成功にとって重要なその他のガバナンスに関する課題 について検討を行わなければなりません。多くの場合、これら の事項に関する決定を行うためには、取締役は代替的な選択 肢に関連するリスクとリウォードの比較衡量を行う必要がありま す。取締役会は随時、同様な意思決定を行っている他企業 の取締役会が用いているベストプラクティスをベンチマークとし て、これらの課題に関する自らのプロセスを評価できますが、多 くの場合、取締役会の事業活動に関する総体的判断力、事業活動についての知識、および人材紹介会社や報酬コンサル タント、法律顧問を含む第三者により提供される情報に依拠す ることが必要となります。

重要な事業リスク─企業の戦略やビジネスモデルの実行可能性を脅かす破壊的なリスクは、取締役会のリスク監視の議 題の大半を占めるべきです。金融機関における信用リスクや、 製造会社におけるサプライチェーンリスクといったリスクは重 要性が高く、取締役会の全面的な関与と、そのようなリスクを 認識しモニタリングを行うための継続的なプロセスを必要とし ます。経営者にはこれらのリスク対応への責任がありますが、 取締役会はそれらのリスクを理解する上で必要な情報につい て検討すべきです。例えば、取締役会は、重要な戦略目標の 達成に関するリスクについて、他の事業リスクと比べての影響 度と発生可能性や、それらのリスクの速度と持続性に関する 経営者からの報告を必要とするかもしれません。また、取締 役会は、リスクの管理に責任を有する経営者から情報を得、リ スク低減に関する取組み状況を理解する必要があるかもしれ ません。

関連するその他の情報の例としては、技術の陳腐化がビジネ スモデルに与える影響、リスクの全体評価における経時的変 化、外部環境変化が企業戦略の基礎となる主要な前提条件 に与える影響、およびその他の事業リスクとの相互関係などが 挙げられます。

取締役会が戦略設定プロセスへ情報を提供する際には、重 要な事業リスクを議題の一項目とすべきです。取締役会は、 重要な事業リスクについて定期的な状況報告を受けるべき です。

取締役会の承認リスク─取締役は、注意深い検討と適正評 価の適時実施を通じて、戦略的取組みやその他の方針に関 する事項に関する経営者の提案を承認する前に、それらが企 業にとって適切であることを確認しなければなりません。従っ て、取締役会は、事業買収や売却、主要な資本支出、あるい は新規市場への参入に関して提案された重要案件について は、経営者の提案を承認する前に、関連するリスクとリウォード について質問を投げかけ、場合によってはさらなる分析を要求 することが必要であるかもしれません。

事業管理リスク─どの企業においても、日常業務には無数の 業務、財務およびコンプライアンスリスクが伴います。取締役 会には全てのリスクを個別に検討する時間はありませんので、 事業リスクのカテゴリーの中で最大の脅威となるものを認識し、 その監視を取締役会レベルで行うのか、あるいは適切な委員 会に監視責任を委譲するのかを決定すべきです。例えば、監 査委員会は伝統的に財務報告リスクの監視を行っており、財 務委員会は戦略的機会、企業合併と買収、財務的エクスポー ジャー、および資本の利用可能性に関連するリスクの監視を 行っているかもしれません。そして、社内プロセス、情報技術、 知的財産、顧客サービス、陳腐化、製造活動および環境に伴 う業務リスク、過大な債務のような財務リスク、新たに制定され た複雑な法への準拠が行われないといったコンプライアンスリ スク、および企業のブランドイメージを脅かすレピュテーションリ スクなどの、考慮すべき他の事業リスクも存在します。

経営者にはこれら全てのリスクへの対応についての責任があ ります。上述のとおり、重要な事業リスクについては取締役会 が継続的に注意を払う必要があります。重要な事業リスクとは捉えられていないその他の事業リスクに関して注意を払うべ き重要な課題が生じた場合には、例外的な対応として上級経 営者および取締役会への報告が行われる必要があります。さ らに、取締役会は随時、特定の事業リスク領域について第一 義的リスクオーナーに説明を求める必要があるかもしれません。

新たなリスク─上述のリスクの範疇には含まれない外部環境 リスクへの対応責任は経営者にありますが、取締役はそれら のリスクを理解する必要があります。新たなリスクの例としては、 人口動態の変化や気候変動、大規模災害、安全保障上の新 たな脅威の影響が挙げられます。

技術的進歩や市場要因、予期せぬ脅威から生じる破壊的な 変化は、事業を行う上で避けられない現実です。どの組織も、 生き残り、繁栄するためには、急速に変化する事業環境の中 で適応していかなければなりません。取締役会のリスク監視 プロセスは、焦点を適切に定めることにより、組織を市場要因に うまく適応させる上で経営者の助けとなりうるものであり、新た なリスクを認識することは適応プロセスの主要な一面です。

上述のリスクカテゴリーは、リスク監視プロセスを焦点が定まり、 かつ十分に包括的なものとする上で、取締役会が考慮すべき 有益な手がかりを提供します。以下は、取締役会のリスク監 視に取り組む方法としてこれらの 5 つのカテゴリーを活用する 上での、一つの考え方です。明らかに、ガバナンスリスクは取 締役会が対応すべき分野です。取締役会の承認リスクにつ いては、取締役と経営者が取締役会の承認事項について事 前に合意し、それらの事項についての取締役会の適時の関与 についても合意することが必要です。これら以外の 3 つのリス ク分類については、取締役会のリスク監視の大半が、重要な 事業リスクと新たなリスクに向けられます。
 
取締役会は、企業が新たなリスクへの対応における先行者 [3] となれるよう、新たなリスクを認識するための有効なプロセスが 整備されていることを確認すべきです。最後に、事業管理リス クについては、取締役会は、重要事項の適時報告と、特定領 域についての定期的な説明が行われるようにすべきです。

[1]  出典:Report  of  the  NACD  Blue  Ribbon  Commission  –  Risk Governance: Balancing Risk and Reward (Appendix A, pages 22-23), NACD, October 2009 
[2] 出典:同前 page 9
[3]  プロティビティでは、「先行者」を、特定の機会またはリスクが広く知られるようになる前 に、いち早くそのリスクまたは機会に気付き、その知識を活用して選択肢の評価を行 う企業と定義しています。先行者に関するプロティビティの出版物は、以下のウェブ サイトから入手可能です

  • 組織にとって重要な事業リスクを認識するプロセスが整備さ れているか。これらのリスクは、取締役会がリスク監視の焦 点の優先順位をつけるために、取締役会あるいは指定され た委員会に報告されているか。
  • 取締役会は、主要な戦略や方針に関する事項について、事 前承認を行っているか。
  • 経営者と取締役会がプロアクテイブに対応することができる ように、新たなリスクを認識し報告するプロセスが整備され ているか。
  • 重要かつ予期せぬリスク事項は、上級経営者および取締 役会に適時に報告されているか。

プロティビティは、上場および非上場企業における取締役によ る組織の重要なリスク監視を支援しています。プロティビティは、 企業の内側からの視点とは異なる、経験に基づいた偏りのな い見解を提供し、取締役会のリスク監視を促進する分析的評 価を提供します。

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