Risk Oversight vol.62 リスク監視における非公開会合の効果的活用

非公開会合は、適切に活用することにより、取締役会のリス ク監視プロセスの重要な一部となりうるものです。 以下で は、非公開会合の価値を最大化するために、非公開会合に どのように取り組むかを考察します。

非公開会合は、以下のようなさまざまな理由で、独立取締役に より開催されます:CEOの業績、報酬および継承に関する評 価、取締役の間の衝突や意見の不一致の解消といった取締 役会の運営に関する課題への対応、上級経営者が関与した 不正行為に関する調査結果の検討、取締役会の運営の在り 方と実績に関する議論、および機密性が求められる事項に関 する少人数での検討など。

非公開会合は、上級経営者がいる場では質問に対して用心 深くかまえたり、回答を躊躇したりする可能性のある特定の経 営幹部から、生の情報を得る機会を取締役に提供するもので す。取締役会のリスク監視プロセスの一部としての非公開会 合の活用に関するポイントは以下のとおりです。

日本語版PDF         英語版PDF

主要な考慮事項

非公開会合は、議事を非公開として行われる独立取締役の 会合です。このことは、経営メンバーは会合に出席せず、協議 事項について知らされていないことを意味します。非公開会 合の目的が十分に理解されている場合には、定期的な非公開会合の開催は取締役会の運営のあり方として健全であると考えられます。非公開会合を開催する理由は組織の文化や状 況によって変わりますが、特定の課題を検討する上では、より 率直で内密の話し合いが求められるため、結果として出席者 をより限定することが必要となります。

非公開会合は厄介なものと捉えられることもあり、濫用によって 不必要な不安や不信が助長される可能性があります。また、 非公開会合において取締役会が十分な情報を持っていない 課題について議論がなされることは、非生産的であり、不適切 でさえあるかもしれません。これらの注意を踏まえた上で、取 締役会が検討すべき事項としては以下のようなものが挙げら れます。

  • なぜ非公開会合を開催するのか。
  • どのような頻度で開催すべきか。
  • 誰の出席を求めるべきか。
  • どのようなテーマについて議論すべきか。
  • どのように議事を進行すべきか。
  • 議論の結果をどのように取り扱うべきか。

上記の問いについて、どの組織にも共通の回答は存在しません が、以下ではそれぞれの問いについての考え方を提供します。

なぜ非公開会合を開催するのか

CEOや取締役の中には、非公開会合は必要ではないと考える人々もいます。また、非公開会合は取締役会が監視におい ては不可欠であると捉える人もいます。時に、取締役会は出 席者を限定した会合において、自らのガバナンスに関する責 務に焦点を当てる時間が必要になります。非公開会合は、独 立取締役がCEO から過度の影響を受けずに意見を交わす 機会を提供するものであり、より開かれた、活気のあるコミュニ ケーションを促進します。取締役会が一定の時間と場所で非 公開会合を開催しない場合は、取締役は、通常の取締役会の 会合とは別に、非公式な形でそれぞれ対話を行うだろうと主張 する人もいます。しかし、取締役が通常の取締役会とは別の 形で何時でも対話を行うことは可能ですが、歯止めが効かな い悪循環となる可能性を考慮すると最適ではないかもしれま せん。

例えば、非公式な対話に参加すべき全ての者が参加できるわ けではなく、非公式な対話に参加する取締役は全ての関連す る事実を把握していないかもしれず、また、取締役の間、そして 取締役と上級経営者の間の仕事上の関係という点で取締役 会の機能が損なわれる可能性すらあります。定期的な非公 開会合は、CEOおよび上級経営者の支援の下、議論を行う上 で正式なプロセスないしは経路を提供するものであり、独立取 締役が率直な意見を述べ、通常の会合では提起しないような 厳しい質問を投げかけることが可能になります。

本資料の目的は、非公開会合に関する賛否を議論することで はなく、リスク監視における非公開会合の利点を指摘すること にあります。例えば、COSO が 2013 年に公表した「内部統制 の統合的枠組み」では、以下のことが述べられています。

監査委員会は、強固な内部監査機能とともに、上級経営 者による統制の無効化と、期待される行動基準からの 逸脱を識別し、迅速に対応するうえで最適な立場にある。 監査委員会は、外部監査人と双方向のコミュニケーション を行い、計画された監査手続の範囲と監査手続の結果 を協議するために定期的に会合をもつ。外部監査人と の会合には、外部監査人と監査委員会との掘り下げた協 議の場を設けるための経営者が出席しない非公開会合 が含まれる。(下線部はプロティビティが修正)

COSOの枠組みでは、さらに以下のことが述べられています。

不正リスク評価の一環として、経営者は、自らによる内部 統制の無効化のリスクを評価する。取締役会またはその 一部となる委員会(例:監査委員会)は当該評価を監督し、 状況に応じて経営者に対峙する。事業体の統制環境は、 経営者による無効化のリスクに多大な影響を及ぼす場合 がある。この点は、上級経営者が多くの統制に関与する 中小規模の事業体にとって、特に重要である。

経営者による内部統制の無効化とは、個人的な利得や事業 体の財務やコンプライアンスに関する状況を良く見せるためと いった正当性を欠いた目的のために、事業体の内部統制を覆 す行動を意味します。内部統制を無効にする行動は、それが 行われたことを隠匿するために、記録に残されないことが通常 です。しかし、経営者による内部統制の無効化を、経営者の 介入と混同すべきではありません。経営者の介入は、正当な 目的のために行うべく設計された統制の枠を超える行動を意 味します。経営者による介入は、全てのリスクを予測し低減す るように統制を整備することができないため、時には必要となる こともあります。経営者による介入行動は、概して公然と行わ れかつ記録に残されるか、適切な社員に開示され、また重要 事項である場合には、取締役会への開示が行われます。

取締役会が適切な形で知識を有し、注意を払い、コミュニケー ションを行うことにより、取締役会は、確立された内部統制とリス クマネジメントの実践に対する経営者による無効化の影響、と りわけ財務報告や重要なリスクの管理に関する経営者による 無効化の影響を弱めるための、効果的な手段を提供する立 場にあります。非公開会合は、取締役がセンシティブな事柄に 関する洞察を適時に得る機会を提供します。非公開会合が 開催されなければ、そのような事項に関する情報の取締役へ の提供はその時期を逸してしまうでしょう。

非公開会合の開催頻度

非公開会合は定期的・計画的に開催すべきです。非公開会 合は、目的が定められ、出席者全員で理解されていることが求 められ、なぜ非公開会合が開催されるのかについて不安を掻 き立てることがないようにすべきです。非公開会合は、取締役 会あるいは委員会のメンバーが全員出席する会合の後に開 催されることが一般的です。非公開会合の開催をこのように 設定することにより、取締役会あるいは委員会のメンバーが全員出席する会合において検討が行われたテーマについて、経 営者の影響を恐れることなく率直な議論を行う機会が独立取 締役に提供されます。

非公開会合に出席が求められる経営幹部

最高財務責任者、最高会計責任者、最高監査責任者、最高リ スク責任者、および最高コンプライアンス責任者といったセンシ ティブな役職にある人は、取締役が留意すべき財務報告、会 計、およびリスクとコンプライアンスに関するセンシティブな事柄 について、有用な洞察を提供することができます。これを目的 として、重要な部門の責任者である主要経営幹部と一対一の 会合を行う機会を独立取締役に提供するために、上記のメン バーの中の 1 名もしくは複数名との非公開会合を開催してい る会社もあります。

非公開会合で議論するテーマ

独立取締役の間で行われる率直かつ開かれた議論は、(1) 経営者による無効化というリスクを効果的にチェックし、(2)重 要な内部統制とリスクマネジメントプロセスの有効性に関する 洞察を提供し、(3)取締役が留意すべき重要な企業文化やそ の他の事項に関する兆候を把握する機会を提供します。懲 戒処分や訴訟、事業上の重要な課題、取締役会の実績といっ た機密事項を取り扱う際には、非公開の形で会合を招集して もよいでしょう。

非公開会合の議事進行

非公開会合は適切な管理が行われなければ、透明性の欠如 や公的説明責任の無視、取締役の不適切な振る舞い、不信 感、無効な取締役会と経営者の関係といったさまざまな問題を 助長する可能性があります。簡潔に述べるとすれば、取締役 会は、適切な課題について、適切な場で、適切な出席者の下
 
で対処しなければならないということです。プライバシーが求 められる場であれば、非公開会合が目的を達する一つの方法 です。

非公開会合における議論の結果の取り扱い

非公開会合における議論に結果について、独立取締役は議 論の中で提起された懸念をCEO および上級経営者に伝える 適切なルートを保持しなければなりません。議事録については、 全ての組織に共通して適用できるルールは存在しません。個 別の非公開会合の閉会後、議事録を作成すべきか、作成する 場合には何を議事録に記載すべきかを、取締役は自ら決定す べきです。

以下は、事業体の活動に固有のリスクの特質に照らして取締 役会が考慮すべき事項です。

  • 非公開会合は定期的・計画的に開催されているか。
  • 非公開会合は、独立取締役が独立取締役相互および出席 する上級経営者との開かれた率直な対話を行う機会を提 供しているか。

取締役会がリスク監視の体制を評価するにあたり、プロティビ ティは、取締役会と上級経営者が全社的なリスクの認識と評 価を行い、リスクを管理するための戦略と戦術を実施するのを 支援しています。また、企業が戦略設定を含む中核となる事 業プロセスとリスク評価プロセスを統合するのを支援していま す。さらに、取締役会のリスク監視プロセスの成功にとって重 要な要素である、リスク監視プロセスに対するリスク報告の改 善を支援しています。

全ての関連情報は

こちらへ
Loading...