Risk Oversight vol.53 ITリスク管理の監視

テクノロジが進歩し、私たちの生活、交流、仕事、遊びを変 えたなどというのは、もはやあまりにもありふれた表現です。 確かにコストの削減、ビジネスプロセスの改善、売上の拡 大に向けたテクノロジの活用により事業のあり方は変化し ています。ユーザーの高度な要請は、クラウドコンピュー ティング、ソーシャルネットワーク、モバイルテクノロジ、その 他の実用化技術のトレンドとあいまって、テクノロジ分野に おける劇的な変化をもたらしています。

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主要な考慮事項

このような環境変化は取締役会のリスク監視にどのような 影響を与えるでしょうか。リスク監視が、投資予算承認の 一部としての個別テクノロジプロジェクト評価や、場当たり 的や受動的なベースでの ITリスクの検討に限定されて いるのでは、不十分でありかつ焦点が狭すぎます。以下 は取締役会がIT関連分野についてリスク監視を強化す るに当たり検討すべき10の提案です。

  1. 組織的にITリスク監視を実施する:取締役会の多 くは監査委員会にITに関する主たる監視役として の権限を委譲しています。しかしながら、監査委員 会の関心は財務報告及び財務報告に関連する統 制にとどまりがちです。選択肢としては、取締役会に よる戦略策定・実施の監視と併せて、戦略的なIT 問 題を別の戦略委員会や財務委員会のなかで評価す ることがあります。企業戦略全体の推進におけるテクノロジの重要性によっては、独立した技術委員会を 設置することも必要でしょう。独立したリスク委員会 があるのであれば、同委員会に委ねることも考えられ ます。要するに、監査委員会のみに限定して考える べきではないということです。
  2. テクノロジがビジネスモデルにどのように組み込まれ ているかを理解する:ITリスクの監視は多くの取締 役会にとってある程度の学習が必要でしょう。テクノロ ジが戦略的サプライヤー、販売チャネルパートナー、カス タマーやアウトソース先との関係を築く手段となってい る場合、取締役はITがビジネスにどのように統合され ているかを理解することが必要です。取締役会は、ま たCEO、CIO、戦略責任者がこのような大局的視野を もつことを支援するように心がけなければなりません。
  3. 的を射た質問からはじめる:取締役会がリスク監視 について問うべき概括的な質問は 3 つあります。自 社のリスクは何か、どのようにリスクを管理しているか、 リスクを管理していることをどのように確認しているか、 です。これらの質問はITにも適用され、効果をあげ るには独立した解析と評価が必要です。ITについ て考える上で重要なのは、ITによって破壊的なビジ ネス変化がもたらされる可能性です。いかなる企業 も業界の基盤を一変させる変化が生じた際、誤った 側にはいたくはありません。
  4. ITを事業としてとらえる:CIO 部門がITを事業として管理します。すべての事業と同様に、IT 事業にも カスタマーとサプライヤーが存在し、情報システムへの 投資に対するリターンを最大化させる一方で、リスクを 最小化させることを確実なものにしなければなりませ ん。IT戦略を企業のニーズに合わせ、ITガバナンス、 リスク管理、コンプライアンスを確立し、ITプロセスを 効率的かつ効果的に管理しなければなりません。事 業との一体化はCIOにとっていつも最重要課題です が、いくつかの理由により実現されていません。例えば、 多くの企業において目標、戦略、主たる成功要因が明 確に伝達されていなかったり、IT 部門が事業を十分 に理解していなかったり、IT 部門があまりに多くの課 題を与えられて取り組みが細分化されてしまっている 等があります。どのような要因があるにせよ、取締役 会の監視により、上級経営者が IT戦略を事業ニーズ とうまく一体化させるよう努めなければなりません。
  5. 統合された全体的視点を持つ:セキュリティ・機密情 報漏洩が第一ではありますが、ITリスクにはそのほ かにも取締役会が留意すべき重要リスクを含みます。 ITリスクは多くのビジネスリスクの一要素であると同時 に、評価しなければならないリスクの一分野でもありま す。バーチャル組織やクラウドによりITインフラの責 任は世界各地の拠点で事業を行っている数多くの 事業体に分散されつつあります。ITを取締役会のリ スク監視の議題のつけたしにするのではなく、監視プ ロセスにおいてITリスクを戦略・オペレーション・財務・ コンプライアンスの各リスクと統合する必要があります。 例えば、戦略リスク・財務リスクにはテクノロジの技術 革新、リソースの配分、プロジェクト管理リスクが含まれ ます。オペレーションリスク・コンプライアンスリスクに は重要情報の正確性や妥当性、セキュリティ・機密情 報、ITリソースの可用性、ITサービスへの適切な費 用配分、インフラストラクチャーリスクが含まれます。
  6. ITインフラの変化の影響に注意する:企業が市場 地位を拡大・縮小・現状維持しているかにかかわらず、今日のIT 環境においては急激な変化が常であり、 IT部門のポリシー、プロセス、人材、テクノロジを変化 に合わせて進化させるべきと、取締役は認識しなけ ればなりません。今日に必要なのは、機動性・柔軟性 の高い ITインフラです。インフラの変更にかかわる 重要なリソースの意思決定については個々の IT機 能より広い視点で評価する必要があります。(たとえ ば、クラウドによってもたらされるインソース、アウトソー ス、コソースの割合の変更など) 具体的には、クラ ウドは、アプリケーションを導入・設定する初期コスト を抑えて、複数のユーザー(従業員、顧客、サプライ ヤー、委託者等)に対しソフトウェア、プラットフォーム その他のリソースを提供する動的・拡張性のあるイン フラです。また、クラウドは企業のファイヤウォールに 対するリモートアクセスを要求しない、安全性の高い エクストラネット間の分散コンピューティングを提供しま す。ITにとっての課題は、これら変化する環境に適 応し、迅速かつ効率的にユーザーの期待に応える一 方、ITに対する投資の効果が十分に実現しないうち に次々と新規システム・アーキテクチャーに変えないよ うにすることにあります。
  7. ​主要なビジネスプロセスの継続性を保つ:事業継 続の計画、回復力、危機管理は全般的 ITリスク管理 プログラムの不可欠な要素です。取締役は経営者 に危機管理や伝達、企業の主要システム(自社所有、 第三者の活用にかかわらず)とビジネスプロセスの復 旧能力について問い合わせることが重要です。
  8. ​ITセキュリティ・機密情報に注意を払う:事業活動 の相互依存性が増すにつれ、データは物理的または 電子的に管理に失敗すると即、負債に転じてしまうよ うな資産です。よって、情報セキュリティ・機密情報に ついてもビジネスにかかわる事項として考えることが 重要です。セキュリティの脅威や脆弱性、機密情報 のリスクは、気がついていようとなかろうとあらゆる企 業にとって問題であり、理解し管理することが必要な リスクを生じさせます。企業が自社の直面するリスクを把握できていないと、深刻な脅威が対応されない まま巨大な問題にふくれあがることがあります。取締 役会は、経営者がセキュリティ・機密情報リスクを識 別・管理するために効果的なプロセスを導入している かを確認しなければなりません。
  9. ​ITリスクにはコンプライアンスの側面があることを理 解する:企業はITに関する特定のコンプライアンス 上の要件があることもあれば、多くの法規制要件の 遵守にはIT部門のサポートを必要とすることもありま す。例えば、法令上の要件ごとに、下記の事項を確 認する必要があります。
    • 当該法令は自社のデータのどの部分に影響し、当 該データを必要に応じて取り出し、維持することが できるのか。
    • 当該要件に従って、データをどのように分類し管理 しているか。
    重要なことは、法令の要件(Eデイスカバリーを含む) を遵守しないと深刻な結果をもたらすおそれがあり、 ITはコンプライアンス遵守に一定の役割を果たして いるということです。
  10. 先進的なテクノロジ監査手法を開発する:2013 年11月に発表されたプロティビティIT 監査ベンチマー クサーベイでは、460 人以上の監査プロフェショナル からの情報を集計しています。このサーベイによると、 多くの企業において必要とされるIT 監査領域がカ バーされておらず、IT 監査リスクアセスメントに多くの 問題点が残されています [1]

要約すると、変化するビジネス目的に対してIT が対応で きなかったり、企業内の ITの役割を理解できていなかっ たり、IT戦略とビジネス目標が合致していなかったり、ITイ ンフラが陳腐化していたり、ITパフォーマンスについての 明確な情報がなかったりすると、IT部門は効果的でなくな ります。効果的な取締役会のリスク監視によりIT 部門を強化することができ、IT が企業に与える価値を最大化す ることができます。

[1] From Cybersecurity to IT Governance – Preparing Your 2014 Audit Plan, 2013 年 11月発表 www.protiviti.com

以下は、企業の営む事業に内在するITリスクの性質に 応じ、取締役会が考慮すべき事項です。

  • 取締役会はITリスク及び自社が ITリスクを管理する ための能力・プロセスについて十分な時間を費やして いるか。
  • 自社は、競合他社や従業員による新規テクノロジの採 用を含む破壊的変化を生じさせるテクノロジのイノベー ションを注視しているか。
  • 重要なITプロジェクトについて、取締役会は各プロジェ クトがコストの削減、ビジネスプロセスの改善、戦略目標 の達成をもたらす前提を理解し、その達成をどのように 測定するかを理解しているか。各重要プロジェクトが 想定された目標を達成できているかをフォローアップし ているか。
  • 取締役会は下記について、適切な情報を得ているか。
    • 自社のITのトータルコスト
    • 全プロジェクトに対するITの費用が ROIの最適化を確実にし、コンプライアンスや契約上の要請を充た していること。
  • 取締役会は自社の直面する機密情報・セキュリティリ スクを理解しているか。機密情報・セキュリティは全 ての新規ビジネスプロセスの一部として考慮されてい るか。
  • CIO部門は例えば以下のような変化するビジネス上の 要請に効果的に対応しているか。
  • CIO部門はコスト削減および機能改善の機会を識別 するために、既存のアプリケーションポートフォリオを定 期的にレビューしているか。
  • 陳腐化したレガシーシステムが効率、機動性、イノベー ションを阻害していないか。
  • クラウドソリューションが利用されているか、もしされている場合、取締役会は関連するリスクを理解しているか。
  • アウトソースプロバイダを利用している場合、取締役会 はプロバイダとの関係が効果的に管理されているかを 確認しているか。
  • 取締役会は自社や業界に関連するIT問題について の知識や理解を維持するよう努めているか。

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