Risk Oversight vol.52 2014年の最重要リスク

市場や環境の変化が新たなリスクを招き、リスクプロファイ ルを変化させ、既存のリスク管理能力の有効性を削ぎま すが、対応しなければならないことは変わりません。マク ロ経済上、戦略上、オペレーション上のリスクのプロファイ ルは多くの企業にとってその重要性、複雑性が増しつづ けています。企業がグローバルビジネス環境下で競争す る中、これらのリスクは経営者および取締役会にとって不 確実性を創り出しています。

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主要な考慮事項

企業にとって最も重要なリスクを識別するための調査を 実施し、400 人近くの役員(大半はグローバル企業)の 方々から回答を得ました。以下のビジネス上の課題のサ マリーは、2014 年に企業が直面する最も留意すべきリス クや不確実性の状況を示しています[1]。業種により直面 する事項や優先順位は異なり、以下の課題の該当性や 優先順序付けは業種により異なりますが、全体としてのリ スクの順位付けをしています。なお、変動がわかりやすい ように、昨年の順位についても記載しています。

  1. 自社製品の生産やサービスの提供に関係する法 規制の変化、および官公庁による規制監視の強化(昨年 1 位):このリスクの評点は前年より下がって いますが、引き続き最重要リスクとなっています。近 年、法規制の変化の速度はますます増し、企業が製 品やサービスを製造・提供するオペレーションモデル に影響し、コストの増加や競合他社に対するマーケッ トシェアの変化を招いています。ゆるやかな法規制 の変化でさえ企業にとっては大きなコスト増となりか ねません。法規制の改正の予兆ですら、雇用や投 資の意思決定を妨げる不確実性となりえます。
  2. ​関係する市場の経済的条件によって、自社の成長 機会が制限される(昨年 2 位):今年も第 2 位ですが、このリスクもまた評点は昨年ほど高くありません。経 済成長により事業計画は立てやすくなりますが、世界 的に見て、経済成長は地域ごとに異なります。回答者 は、特定市場における2014 年の成長見通しが課題 となると懸念しているようです。いうまでもなく過去数 年の経済動向からみて、経済成長の速度はどの地 域でも大きくかつ迅速に変動する可能性があります。
  3. 国内外の政治的リーダーシップの不確実性によっ て、自社の成長機会が制限される(昨年 3 位): 政 情に関する不確実性もまた引き続き重要とされてい ます。アメリカ合衆国における政治対立や地政学 的な動向により、ビジネス環境は複雑かつ不確実に なっています。
  4. ​後継者の選定や、トップにふさわしい人材の獲得 能力の不足が、事業の目標を達成する上で障害と なってしまう(昨年 4 位):優秀な人材を雇用・育成・ 維持する重要性は高まっており、人材管理プロセス が重要視されるようになっています。経営者は、いわ ゆるミレニアル世代と呼ばれる増加しつつある若年 層のモチベーションやスキルアップには従来と異なる 手法が必要と気付き始めています。昨年も記述した ように、団塊世代が定年を迎えつつあり、世代交代 が大きな課題となっています。そのために、企業は 人材の維持や交代のために、パートタイマー、契約 社員等柔軟な代替的な雇用形態を検討しつつあり ます。
  5. 顧客の獲得・拡大を通じて自己組織を成長させるこ とができなくなる(昨年 5 位):回答者は、2014 年における自社のカスタマーベースの増加、顧客ごとの 売上増加や新規売上の創出について課題を感じて います。これらは、競合他社の増加、顧客ロイヤリ ティの維持、可処分所得の低下に伴う消費の減少 等いくつかの要因によるものと思われます。
  6. ソーシャルメディアビジネス、クラウドコンピューティン グ、モバイルコンピューティング、その他の技術革新 に対応するために、個人情報・ID 管理及び情報セ キュリティ保護についての企業が有していないリ ソースが必要となり、またサイバーリスクが、自社のコア事業を著しく毀損する(昨年 6 位):このリスクもま た上位にあります。テクノロジーの変化により、セキュ リティや個人情報はより複雑で管理が困難になって いきます。ソーシャルビジネス、クラウドコンピューティ ング、モバイルコンピューティング、新規プラットフォー ム・デバイス、バーチャル職務環境等の技術革新に より企業が新マーケットを創出したり、破壊的なビジ ネスモデルを創造する機会も生じていますが、他方、 企業を大きく損ねるサイバー攻撃や悪戯の場を生じ させています。
  7. ​変化に対する社内の抵抗が、ビジネスモデルやコ ア事業への必要不可欠な適応能力を阻害してしま う(昨年 7 位): 他の項目と同様引き続き重要なリス クとして、経営者は市場の変化に対し、企業が機動 的・順応的・弾力的に対応することを重視しています。 激しい環境変化の中では、市場の機会を早期につ かみ、新規リスクに対応する先駆者こそが生き残り、 繁栄することができるでしょう。
  8. ​グローバル金融・通貨市場におけるボラティリティ予 想に関するリスクが、自社で対処しなければならな い問題を引き起こす(昨年 3 位):経済の最前線に 目を向けると、米国の連邦準備制度はじめ中央銀行 の政策により、金融市場において突然かつ劇的なボ ラティリティのリスクが生じ、利率、信用枠、為替に悪 影響を及ぼすおそれがあります。昨年はこのリスク を上記 3 位の政情不安リスクとあわせて評価してい ましたが、今年は両者を同じレベルで評価するもの ではないことから区別しています。
  9. 医療保険制度改革法案を遵守するためのコストが 不確実なため、成長が妨げられる(昨年圏外):このリスクは、米国企業及び、米国外に本社を置き米国 内で大きく事業展開をしている企業の評点により、グ ローバルトップ 10の中に入っています。オバマケア の経営者義務の延期をはじめとする米国医療保険 制度改革の施行が不確実な状況にあり、現時点で は企業としては事業に与える影響を測りかねていま す。その結果、あらゆる規模の企業にとって、雇用 計画や投資決定に影響が生じています。当然のこ とですが、米国外に本社を置き米国内で事業を行っ ていない企業は、このリスクを懸念していません。
  10. その他:自社の事業が業績目標や競合他社に追 いつかない(昨年 8 位)、新規テクノロジーにより企 業のビジネスモデルが破壊される(昨年圏外)、想 定外の事象により企業が打撃を受ける(昨年 9 位):回答結果によると、10 位には同順位のリスクが 3 つ 並んでいます。一つ目は、自社の事業が業績目標 や競合他社に追いつかないリスクです。品質、時 間、イノベーション、コストの改善は引き続き重要です。 二つ目は、業界における破壊的イノベーションや新規 テクノロジーにより、企業がビジネスモデルを大きく変 えないと競争力が失われるリスクです。最後は、想 定外の事象が生じた際、準備不足により企業のレ ピュテーションが著しく打撃を受けるリスクです。これ ら3 つのリスクは、ほぼ同レベルの評点となっています。

昨年 10 位に挙げられていた、データ分析やビッグデータ を利用してマーケット情報収集や業務の有効性改善を行 えないリスクは、今年は10位圏外になっています。もっとも、 ビッグデータやデータ分析の影響は今年の 10 位内のリス クの中に内在しています。

サーベイ結果によると、上位 7 位までのリスクは昨年と順 位が変わっていませんが、世代交代・人材維持、変化へ の抵抗、想定外事象のリスクは昨年と同レベルの評点で あり、医療保険制度改革、破壊的テクノロジーのリスクは 昨年より評点は高くなっており、その他のリスクは順位が 変わらなくても、評点は昨年より低くなっています。トップ
 
10の多くの評点は低くなっているものの、これらのリスクは 経営者にとっては常に念頭にあり、懸念事項であることに は変わりはありません。 以上が我々のサーベイにおいて識別された、2014 年に向 けて世界の企業が直面する重要な課題です。これらの 課題は取締役会や関連する委員会が適切なリスク監視 課題を策定するための基盤となるでしょう。
取締役会の考慮事項 取締役会は企業の事業に内在するリスクの性質に応じ、 2014 年のリスク監視の重点を評価する上で以上のリスク を考慮するべきでしょう。

プロティビティの支援

取締役会と経営者がリスク監視に取り組むに当たり、プロ ティビティは企業のリスクを識別・評価し、リスクを管理する ための戦略・手法の導入を支援します。プロティビティは 企業が戦略策定を含む経営プロセスにリスク管理プロセ スを統合する支援をしています。また、リスク監視プロセ スへのリスク報告の改善を支援するために、企業内部と は異なる、知見に基づく独立した視点を提供します。

[1]  プロティビティ・ノースカロライナ州立大学 ERMイニシアティブの共同サーベイwww.protiviti.com から入手可能

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