Risk Oversight vol.46 カントリーリスクを管理する

カントリーリスクとは、国外投資に際して投資価値の毀損 あるいは投資利益率の低下をもたらす種々のリスクです。 投資価値の毀損は、事業の国有化や資産の没収等、現 地国家権力の行為に生じえます。投資利益率の低下は、 現地政府が特定企業、特定業種(エネルギー・金融等)、 特定国籍の企業(税金の上乗せ、価格・生産規制、為替 規制、事業拡張規制能力規制その他)に対し差別的な措 置をとることによって生じえます。(これらは、暴動、テロ、戦 争、インフラ不全、誘拐やその他の行為によって生じること もあります。)カントリーリスクを管理する主目的は、海外へ の投資を保全し、十分な収益を確保することにあります。

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主要な考慮事項

2010 年のアラブの春以降の事象は、政府が資産の没収 や差別的措置を実施したり、現地で暴動や内乱が発生 してしまった後からでは、企業がとれる危機管理・損害管 理の選択肢は限られてしまうことを示唆しています。リス クの高い国におけるこれら事象は予兆なしに発生します から、企業としては事業を遂行する国のポートフォリオを 定期的に見直さなければなりません。効果的なカントリー リスク評価には政治情勢の安定度、財政状況の安定度、 経済情勢、腐敗の度合い等の要素の評価が必要です。 しかしながら、これらの評価は正確性に難があり、またプ ロアクテイブな意思決定プロセスに組み込まれていること は稀です。調査会社を利用して関係するリスクの兆候 の指標を得る企業もありますが、意思決定において具体的に何をすべきかについてまで満足させるものではありま せん。その理由のひとつは、影響の重大性大・発生可能 性小のリスクは基本的に予測不能であることです。 以下は、リスクの高い状況に直面した場合にグローバル 企業が検討すべき事項です。

現地経営陣を強化する:リスクの高い状況が生じたとき は、現地経営陣が状況を把握していることを確認し、彼 らに従業員の安全ならびに企業資産の保全のために必 要なあらゆる手段をとることができる権限を与えます。現 地経営陣こそが現状を最も理解していますし、従業員や 事業や資産の管理の成否にかかわる文化風習につい て精通しています。企業は現地従業員や派遣員の安 全健康を守る道徳的義務がありますから、現地経営陣に、 従業員の安全がビジネスの何よりも優先することを明確 に示さなければなりません。

没収・差別措置の影響を低減する: 企業が投資価値 の大きな毀損をまねく資産没収や、税制措置、価格統制・ 為替統制その他投資利益率を大きく低下させる差別 的措置を受ける可能性があるときは、以下の措置を検 討します。

  • 資金の還流: 為替規制上可能であれば、現地事業 の継続に必要な要件を検討の上、資産没収によるリス クを低減するため、できる限り資金を本国に還流する。 つまり、現地政府が自社の資金を標的にするおそれが あるなら、急いで資金を本国に戻すのがベストでしょう。
  • 投資の抑制:情勢が落ち着き、経営者が当該国にお ける会社の利益を判断できるようになるまでが、その会 社をキャッシュカウと位置付けることが肝要です。追 加投資は避け、上記のようにできる限り資金は還流しま す。在庫の海外からの補給を停止し、給与、メンテナン スその他事業に必要な資金を現地のキャッシュフロー の範囲内でまかなうことを検討する。
  • 清算・売却・撤退:情勢が落ち着いているうちに資産 を売却して撤退することは、よい買い手が存在する限 り一つの選択肢となります。逆に、暴動・無政府状態 に陥ってからでは難しいでしょう。可能なら、有形資産、 データファイルや知的財産等の無形資産を安全な場 所に移動させることも考えるべき選択肢です。例えば、 企業が危険地域の近くに車両・重機を所有しているな ら、暴動・紛争を避けるために移動させることも一案で す。高価な物的資産を危険地帯から安全な場所に 分散させることも一案ですが、逆に現地政権がこれを 守るために警察力・軍事力を行使した場合には、暴動 や略奪の発端となるおそれもあります。
  • リスクの共有:確約はできませんが、現地・海外パート ナーとジョイントベンチャーを組むことで、現地人の存在 が多国籍企業であることを目立たなくさせることにより、 没収リスクが低減されることもあります。コストが見合 うのなら、政治的リスク保険により資産没収、政治的紛 争、暴動、紛争、差別的措置等のリスクをカバーするこ とも考えられます。

そのほかにも、ロビイング活動や現地労働組合と良好な 関係を維持する等の受動的な方法もありえます。

リスクを評価する際に海外の情勢を考慮する:海外展 開している他の国についても情勢変化の背景を理解し て同様のリスクを評価し、リスクに対応するためのプロア クテイブな行動をとる。ソーシャルメディアがデモを扇動 する影響力を考えると、エジプト、リビア、シリア、チュニジア、 イエメンで発生したことは、中東地域はじめほかの地域で も生じる可能性があります。失業率が高く、政治プロセ スにも参加が認められていない等中間層が不満を抱いている国は要注意です。一人当たりGDP が低く、家庭 消費中食費の割合が高い国における食糧価格の高騰 のおそれも要注意です。さらに、腐敗が浸透し、水資源 危機、食糧危機、耐えきれない人口急増の危機が続いて いる国も注意しなければなりません。これらのグローバル リスクが複雑化し、組み合わされ、大衆を扇動することに なります。

事後的な検証を実施する:ある国で危機が発生したら、 経済・政治・金融システムについてリスクの観点から、過去 において当該国に関して行った想定を再検討する。コ ンサルタントを利用したのなら、その調査結果やアドバイ スを再検討する。経営者として、その危機を想定してい たのか、想定していなかったのならその理由は何故か、 想定していたのなら準備していたのか、また、ほかにとる べき選択肢もあったのか等々、事後的な検証により、経営 者は何が起きたのかをレビューすることにより、事業を行っ ている他の国のための教訓を得ることができます。

世界は絶えず変動し、さまざまな力が同時に作用してい ます。グローバル企業は今後も政治情勢の不安定に対 応していかなければなりません。

取締役会は、企業の営む事業に内在するリスクの性質 に応じて、以下の事項を考慮すべきです。

  • 新たな国や地域に新規投資を行うかどうかを評価す る際、意思決定のプロセスにおいて当該国や地域に 特有のリスクを慎重に考慮しているか。取締役会は 投資に伴うリスクおよびリターンの評価に適時関与して いるか。取締役会は海外事業投資に関する専門性 あるリソースを利用でき、正しい質問をできる状況にあ るか。
  • 将来または現在の海外投資について評価するときは、 実地経験者や現地で接触している者が評価プロセス において情報を提供しているか。企業は当該国や地 域における現行または直近のプロジェクトに経験のあ る国際的および現地の弁護士を利用しているか。

プロティビティは、企業がこれらのリスクおよびリスク管理 体制を評価する支援を行っています。プロティビティでは、 企業がレピュテーション・ブランドイメージを毀損しかねな いリスクを識別・優先付けする支援をしています。支援 に当たっては、(1)経営戦略の実行に際してのリスクを 予測・管理することで戦略を強固にし、(2)リスクおよび リスク管理を経営活動と統合する、という観点で実施 します。

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