Risk Oversight vol.43 ソーシャルビジネスのリスクプロファイル

ソーシャルメディアとは、会社のブログ、YouTubeをはじ めとしたビデオシェアサイト、Facebookをはじめとしたソー シャルネットワーク、Twitter、評価サイトのようなマイクロブ ログツール、不特定多数のユーザーが書き込みをするナ レッジソースであるwiki、クラウドソーシングなど、アクセス 性の高いメディアの集合体を指します。ソーシャルメディ アはインターネット、Web2.0、モバイルテクノロジーの力を 最大限に活用することにより、人を結び付けるためのユー ザー発コンテンツの創造、共有、使用、修正を推進します。 これらのテクノロジーの統合は、多くの企業においてカス タマーリレーションシップマネジメント、マーケティング、企 業の情報発信を一変させました。

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主要な考慮事項

ソーシャルビジネスとは、ソーシャルメディアを活用してビジ ネス目的を達成することを言います。ソーシャルツールを ビジネスプロセスに埋め込むことにより、人と人、人と情報、 データと思考をつなぐことが可能となります。ソーシャルビ ジネスコミュニティを通じて、企業は、満足度の高低を問 わず顧客から直接意見を得て学習することが可能となり ます。また、潜在的なバイヤーグループから製品開発チー ムが新製品計画について早期に情報を得ること、マーケ ティングメッセージの是非を検証すること、顧客に製品の 使用・活用方法を教育・伝達することも可能になります。 このような技術発展により、企業は顧客らと密接に繋がる ことが可能になった反面、新たに監視しなければならな い一連の新しいリスクも生じています。以下は新たな10 のリスク例です。

  1. 知的財産・機密データの流出
    取締役及び執行役員にとって、ビジネスにソーシャル メディアを利用することに起因するセキュリティリスク は懸念材料です。企業のパスワードを不正利用さ れた場合の損失は想像に難くありません。たとえば、 2013 年 4月には、主要ニュースサイトの Twitter投 稿がハイジャックされた結果、ホワイトハウスへのテロ 攻撃というデマ情報が流布され、株式市場を大混乱 に陥れました。取締役や執行役員は、自社の戦略 的情報の不適切な発信・流出・窃取のリスクや、会社 のネットワークやシステムに対する破壊的情報窃取・ 侵入マルウェアのリスクに、会社がどのように対応し ているか確認すべきでしょう。
  2. コンプライアンス違反
    ソーシャルメディアにおいては、情報の共有によって、 商標・著作権侵害、情報セキュリティ違反、プライバ シー侵害、文書保存義務や eディスカバリの対象とな る電子情報管理の不備などのリスクもあります。
  3. レピュテーション損失
    消費者の意見はソーシャルメディアを通じて急速に 広がる可能性があるので、危機発生時に効果的な レスポンス計画が必要です。従業員の不適切な行 動、非現実的な製品・サービスへの期待の設定、内 部的・私的なメッセージを意図した悪質なツイート、顧 客が期待するオープンで直接的なコミュニケーション に対応する会社の拙さなどにより、レピュテーション損 失が引き起こされる可能性があります。顧客やその 他の者も、企業に対するネガティブなメッセージをソー シャルメディアを使って発信することもあり、企業が適 切に対処しなかったり注意を怠ったりすると、潜在的 危機が現実化したり、製品やプロセスに対する改善 対応がとられないこともありえます。
  4. 財務報告
    ソーシャルビジネスの活用にかかわる従業員は、直 接株価に影響したり、インサイダー取引などの金融規 制に触れる可能性のある会社の情報に関して、コメ ントをしないように気をつけなければなりません。米国 SECによる最近のレポートによると、企業は開示規則 (レギュレーションFD)に沿ってFacebookやTwitter といったソーシャルメディアを利用して投資家に情報 を開示できますが、その場合、投資家は利用される ソーシャルメディアを知らされている必要があります。 企業の公式 Twitterアカウントを利用してメッセージ を発信できる従業員が複数いるなら、全員に対して 発信できる内容と発信できない内容が何かについて 周知しなくてなりません。
  5. 人的リソースへの影響
    ソーシャルビジネスは人的リソースについてもメリットと デメリットの双方をもたらします。例えば、人的リソー スを募集することもできれば、他社に引き抜かれる危 険もあります。
  6. ナレッジの棲み分けを行うテクノロジーの操作の難しさ
    多くの企業は、人々が新しいテクノロジーをどのように 使うかの全ての方法を理解するのは難しく、これらの テクノロジーを利用している顧客ターゲットに効果的 にたどり着くマーケティング戦略をいかに確立するか 苦心しています。
  7. 身体への危険
    企業における責任、出張日程やその他の従業員の 行動に関する情報を開示することにより、従業員の 身体を直接危険にさらすおそれがあります。
  8. 競争上のリスク
    従来のマーケティング手法や顧客とのコミュニケー ション手法に依存していると、ソーシャルビジネスコ ミュニティが形成する意見に迅速に対応できる競合 他社にマーケットシェアを奪われるおそれがあります。 新規参入者や機動性の高い他社がニッチ市場を開 拓するのに利用するソーシャルメデイアを無視すれ ば、高いマーケットシェアを有する企業にとって破壊 的な驚異となります。事実上、企業は、競合他社が 大衆の目のもとに彼らの製品やサービスをはっきりと 印象づける機会を与えるリスクを負うと同時に、ソー シャルメディアを利用して製品・サービスの継続的な 改善の場を得ることもできます。
  9. ブランドの不正利用
    自社のブランドを不正利用する第三者が自社を装っ て顧客にアプローチする危険は、ソーシャルメディア によって増しています。
  10. ソーシャルビジネスコミュニティの管理の拙さ
    想定外の状況が生じるおそれがあります。たとえば、 ソーシャルメディアを設置したのに参加者が現れな かったり、ソーシャルメディアを通じて関心が高まった のに活かしきれなかったり、「炎上」を管理できなかっ たりなどです。

上記はソーシャルビジネスに関するすべてのリスクを網羅 しているわけでも、また、ソーシャルビジネスを活用すべき でないということを示唆するものでもありません。また、ソー シャルビジネスを全く活用しないということは、より大きなリ スクかもしれません。各企業は、ソーシャルビジネスを活 用するリスクを評価し、モニタリングする手法を確立し、必 要に応じてリスクを低減させなければなりません。企業 の状況やソーシャルビジネスの活用に応じてほかのリスク も発生することもありえます。これにより、企業のリスク評 価や対応の中に、ソーシャルビジネスの管理能力を含め る必要性がますます高まっています。

取締役会の考慮事項 以下は、事業に内在するリスクに応じ、取締役会が考慮 すべき事項です。

  • 会社はソーシャルビジネスを活用していますか。そうで あれば、ソーシャルビジネスに対するアプローチは他社 と同様ですか、違ったものですか。
  • ソーシャルビジネスを活用している場合、経営者はリス クが顕在化した場合の対応を含め、上記のリスクにつ いて考慮していますか。また、変化するソーシャルビジ ネスの世界を管理するために十分な人材を配置して いますか。
  • 会社はソーシャルビジネスサイトに何が搭載でき、何が 搭載できないかについて下記のような事項についての 明確な方針を持っていますか。
    • 受入可能な経路
    • 会社の財産または個人の財産の利用
    • 法規制要件の保存
    • 会社サイト上における送付されたアイディアや好まし くない内容などへの対応
    • 従業員や友人の行動から引き起こされる“ 間接的な 風評リスク” の管理

プロテイビテイの支援

上級経営者が会社の風土ならびに市場におけるポジ ションと整合のとれたソーシャルビジネスの能力をつくりあ げるためのアプローチを定義するのを支援します。また、 ソーシャルビジネスサイトの活用に関する明確なガイダン スを提供するための方針の更新ならびにソーシャルメデ イア社会における情報セキュリティ、プライバシーリスクな どの管理について支援します。

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