Risk Oversight vol.42 贈賄リスク対応の高度化

昨年、モルガンスタンレー社の元役員が自社の内部会計 統制に違反し、米国腐敗行為防止法(FCPA)に違反し た行為について有罪の答弁をしています。この事件では、 米国司法省は、同元役員個人のみを摘発し、法人につい ては摘発を見送ったということに関しては重要なケースとい えます。司法省は、同事件で、モルガンスタンレー社のコン プライアンス対応の仕組みに言及していますが、これはあ らゆる業界の企業にとって自社のコンプライアンス対応を 評価する際の深い洞察を与えるベンチマークとなります。

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主要な考慮事項

数十年にわたり、内部統制を確立したからといって社内 規定や、法令、規制に対する違反行為がなくなるわけで はなく、また共謀によって、内部統制の網の目をくぐること もあると一般に認知されています。米国司法省が今回 モルガンスタンレー社に対しては免責を認めたことは、つ かみどころのないとされる内部統制の「合理的な保証」 のラインを同社が達成したという強烈なメッセージを発信 したことを示しています。

以下は、同事件に関する司法省の判断から得られた、10 の教訓です。

  1. 強い「トップの姿勢”tone at the top”」をもっ て組織をリードする : コンプライアンスにおいては、経営トップの姿勢こそ が重要になります。倫理感を持ってビジネスを遂 行することで模範を示すとともに、中・上級経営層は、 継続的かつ頻繁に企業理念遵守の徹底を訴えな ければなりません。贈収賄を一切許さないとする姿 勢はトップから発せられなければなりません。
  2. 強固な責任体制とコンプライアンスの監視を行う :  個々の従業員には特定の責任を与え、説明責任を 持たせなければなりません。企業のコンプライアンス プランの責任者も任命する必要があります。コンプ ライアンス責任者は、違反問題を監視・管理し、さら に明確なレポーティングラインによって支えられてい なければなりません。取締役会による強固なコンプ ライアンスリスクの監視も重要です。
  3. 包括的な贈賄リスク評価を実施する  : 意味のある効果的なリスク評価プロセスを行ってみ てはじめて、経営者は自社のグローバル事業に内在 する固有の贈賄リスクを理解することが可能となりま す。このプロセスによって、自社の事業が遂行され る地域がどこか、また考慮すべき地域固有のリスク は何かを理解することができ、コンプライアンス監視 についての方向付けや焦点が定まります。
  4. コンプライアンスプログラムを変化に応じてアッ プデートする  : 自社のコンプライアンスプログラムが、法規制・業界の ガイドラインなどの改正に沿ってアップデートされて いるか確認しなければなりません。コンプライアンス プログラムが時代遅れにならないよう、経営資源を 配分し続けなければなりません。また、過去の違反 行為から得られた教訓を活かす必要があります。
  5. 自社が事業を展開する地域の利害関係者を理解する : 「外国公務員」の定義を広く当てはめ、これらとかか わりのある役職員には会社に対し報告を求めなくて はなりません。社外のエージェントを利用している場 合、契約条項の理解、エージェントの行動実態、報 酬がどのように支払われてきたか、エージェントを利 用するビジネス上の意義などをチェックし、かつ、これ らの状況について変化がみられないか継続的に確 認しなければなりません。
  6. コンプライアンス研修を実施し、その有効性の確 認を実施する  : 贈収賄法規制及び企業ポリシー・手続の遵守や期 待を明確にした研修を実施しなければなりません。 また、研修は定期的に実施し、全従業員・外部エー ジェントから自社のコンプライアンスポリシーを遵守す る旨確認を得る必要があります。ポリシー・手続が 改訂される都度、従業員やエージェントに周知すると ともに、再研修を実施すべきです。
  7. 効果的な監査・モニタリング体制を確立する  : 監査・モニタリングプロセスを通じ、企業のコンプライ アンスプログラムの有効性を評価する必要がありま す。取締役会や委員会においてリスク監視をしっか りと行うのであれば、監査報告書に加え、贈賄コンプ ライアンスを予防し発見するために策定されたポリ シーへの違反行為に関する苦情や通報・調査結果 を定期的に確認すべきでしょう。
  8. 内部通報の経路を確立する  : コンプライアンス問題が生じた場合、速やかに把握 できる仕組みが必要です。従業員が法令やコンプ ライアンスポリシーの違反行為や違反の疑いを感知 したときに、企業に報告し通知できるシステムが必要 となります。従業員には、法務・コンプライアンス担当 者の連絡先を周知しなければなりません。匿名の 内部通報ラインを確立し、従業員にこれらレポーティ ングラインの利用を推奨しなければなりません。
  9. 違反行為には確固とした対応をとる :  違反の疑いが発生したときは、適切な担当者は、速 やかに対応を実施し、社外弁護士を含む専門家か ら助言を受け、調査を行い、違反行為をした従業員 に対して解雇を含む処分を行い、さらに当局に通知 し、また、必要に応じて株主にも開示しなければなり ません。
  10. 適切な記録を保存する :  研修を実施した日時・場所を含めた、研修実施の記 録、各研修プログラム、ポリシー通知などを保存しま す。従業員が研修・通知を受けた日時については、 各人の人事記録にも残します。

以上の教訓は、モルガンスタンレー社以外の企業におい ても、コンプライアンス対応の管理の模範となるでしょう。 同社の事例は、悪質な従業員が内部統制を上手くすり 抜けてしまったとしても、継続的な強固かつ明確なコンプ ライアンス体制の推進とこれに対する経営トップの強いサ ポートがあれば、司法省はこれを評価することを示してい ます。

取締役会は、遂行する事業に内在する固有リスクに関し、 贈賄リスクをはじめとしたコンプライアンスリスクに対応す る際に、以上の教訓を考慮するのがよいでしょう。

プロティビティでは、企業がコンプライアンスリスクを持続 的に評価するプロセスを確立し、また、贈賄防止等をはじ めとしたコンプライアンスプログラム・統制を策定し、法的・ 社会的責任を果たしていく支援を実施しています。プロ ティビティは、贈賄リスクガバナンスの確立、従業員への 研修、個別監査プログラムの策定・実施、モニタリング体 制の構築等、企業が全社的に贈賄リスクを発見・防止す るための支援を実施いたします。

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