Risk Oversight vol.41 リスク管理とビジネスプランの統合 戦略策定とは企業の全体的戦略や差別化要因ならび に必要な要件を定義し、策定された戦略を企業の事業 年度または事業サイクルにおいて実行する方法を明確 にするのがビジネスプランです。企業によっては、複数年 にわたるビジネスプランを策定し、年次毎に更新する形 が取られることがあります。そこにおいては、リスクをビジ ネスプランといかに統合するかが課題となります。 日本語版PDF 英語版PDF Topics 取締役事項 主要な考慮事項 ビジネスプランの策定においては、業績に影響を与え、ビ ジネスプランの実行を妨げる弱点、損失を引き起こす要 因、不確実要因を識別することが重要となります。また、 ビジネスプランを支える予算並びに予測プロセスも、流動 性リスクなど、対象期間における組織の実行可能性を損 なうリスクを有効に管理しなければなりません。つまり、ビ ジネスプランの対象期間において特に考慮すべきリスク は、ビジネスプランを期待通りに実行できるか、また、その 間企業が資金不足に陥らないか、という2 点です。 流動性リスクに関しては、多くの点について検討する必 要があるでしょう。たとえば、季節変動、避けることができ ない予想外の売上の減少や費用の増加、不十分な資 金調達能力または運転資本不足、キャッシュフロー管理 プロセスの懸念等があります。さらには、想定外の事象 によって事業そのものの継続が妨げられ、債務の返済期 限と返済原資となる換金性資産のマッチングに失敗する 可能性もあり、究極的には、計画していない資本の欠損 や借入約定違反を生じさせる異常な事態が起こりうるこ とを忘れてはなりません。したがって、ビジネスプラン策定 プロセスにおいては、経営者・取締役会が絶対的に信用 をおける予算プロセス並びに予測プロセスが重要となる のです。 ビジネスプランにおいては、モニタリングすべき指標及び 手法を特定する必要が生じます。戦略設定プロセスの 過程で戦略に内在するリスクを明確に理解できていれば、 その理解は主要指標の設定のための情報を提供する のに役立つでしょう。その結果、リスク管理は業績管理と 統合することが可能となります。具体的には、主要業績 指標(KPI)と主要リスク指標(KRI)を統合し、ビジネスプ ランプロセスを推進するための一体化した指標を作り出 さなければなりません。 KPIとは戦略の達成度を監視し、企業全体に業績結果 を通知する第一義的な手段であるのに対し、KRIとは主 要リスクシナリオの進行状況を示す指標です。KRIを統 合することにより、顧客満足度、従業員満足度、品質、イ ノベーション、時間、費用といった通常の KPIを補完する、 建設的でバランスのとれた指標を設定することが可能と なります。例として、製造拠点におけるメンテナンスの 度重なる順延は、環境衛生安全リスクの先行指標とな ります。 KPIとKRIは一体となってビジネスプランの実行におい て何を管理すべきかについての方向性を指し示します。 設定された指標によって企業は事業目的の達成度を追 跡し、リスクを監視ならびに軽減し、法規や社内規程を遵 守することが可能となります。これらの指標は統合ビジネ スプラン策定の基礎となり、さらには、リスク軽減計画、予 算策定、リソース配分、報酬システムと一体化した組織横 断的な企業戦略を実行するための包括的フレームワーク を提供します。 多くの企業においては、これらは個々に独立したプロセス となっています。 たとえば、ある企業において、標準ステップ、つまり識別、 要因分析、測定、評価、管理、監視の手順に沿ってリスク 管理プロセスが実施されているとします。いったんリス クが識別されると、その要因・根本原因が分析されます。 つぎに当該リスクは発生可能性や影響度等によって測定 されます。さらに必要なリスクプロファイル及びプロファイ ルに沿ったリスク対応策について評価がなされ、リスク対 応策に沿って管理・監視されます。 これに対し、企業のビジネスプラン策定プロセスは、事業 環境評価、計画策定、計画実施の3 段階によって構成さ れます。そこで、ビジネスプラン策定プロセスの事業環境 評価の局面にリスク管理の識別・要因分析プロセスを統 合し、計画策定の局面にリスク管理の測定・評価プロセス を、計画実施の局面にリスク管理の管理・監視プロセスを 統合することで、リスク管理は事業遂行の不可分な要素 となります。 このように、統合的なビジネスプランの策定は、戦略の実 現可能性を最大限に高め、管理者に必要なリソースの 確保を可能にし、ビジネスプランに内在する主要なリスク に対処するために必要なリスク管理能力を高めることに つながります。 取締役会の考慮事項 以下は、事業に内在するリスクに応じ、取締役会が考 慮すべき事項です。 自社のビジネスプランは: 主要な事業目的を達成する上で必要なステップが、 業績計画の中に織り込まれているか。それらは、結 果を評価できる主要指標を伴っているか。 業績ならびにビジネスプランの実現や期待される財 務目標の達成を損なう、弱点や損失を引き起こす要 因を識別できているか。 報酬体系を通して、報酬システムと期待業績実現の 連携をとっているか。その報酬体系は、従業員の短 期利益と株主の長期利益の双方にバランスが取れ たものになっているか。 上級経営者と取締役会は、自社の予算プロセス並び に予測プロセスに自信があるか。 プロティビティの支援 取締役会がリスク監視を実践するに際し、プロティビティ は企業のリスクを識別・評価し、管理するための戦略を支 援します。プロティビティはリスク評価プロセスのビジネス プランを含めたコア事業プロセスへの統合を支援してい ます。 全ての関連情報は こちらへ