Risk Oversight vol.38 「企業の姿勢」を確立する

「トップの姿勢(Tone at the Top)」とは、企業経営トップ のリーダーシップが企業全体の倫理的かつ責任ある行動 を助長する概念として知られています。トップの姿勢は勿 論重要ですが、トップの姿勢があればよいのでしょうか。

日本語版PDF         英語版PDF

主要な考慮事項

経営リーダーは企業のビジョン、ミッション、コアバリューや 倫理行動へのコミットメントを発信しても、企業文化を認 識させ従業員に共感をもたらすのは、従業員たちが日々 見聞きする直接の上司の行動です。ミドルマネージャー 層の行動が経営トップのメッセージや価値観と食い違っ ていれば、下位の従業員はすぐに気がつきます。経営トッ プからのトップダウンの責任ある企業行動に関するメッ セージは、つまるところ、その最も弱い箇所がボトルネック になりますから、企業全体に周知するには、まずはミドルマ ネージャー層の「ミドルの姿勢(Tone in the middle)」 に効果的に展開する必要があります。[1]

「企業の姿勢(Tone of the organization)」を確立する 上で、3 つの要点があります。

  • ミドルの姿勢とボトムの姿勢はトップの姿勢と一 : 致しているという前提には立たない 各層の姿勢を同一化させることこそが重要です。 企業内の階層が多いほど、各階層間の姿勢の食い違いが生じるリスクは高くなります。同様に、経営トッ プ層がミドルマネージャー層や一般社員が通常知っ ている財務・オペレーション・コンプライアンスリスクを 知らないというリスクも高まります。情報は上に上る につれてゆがめられ、リーダーが真実を知らないとい う状況を産みがちです。[2]
  • 全員の意識が高いという前提には立たない : 強固でかつ倫理的文化の確立には従業員の高い 意識が必要です。意識が低いと、無気力、離職、不 正、事故、資産の横領、労働災害、品質不良、品質 不全、顧客重視の視点喪失等を生じさせます。[3]
  • 状況を把握する:財務・オペレーション・コンプライ アンスリスクの多くは企業のプロセス内に存在する :  ビジネスの前線では、企業トップではなく、ミドルマ ネージャーやその部下によって意思決定・アクション がとられるものです。これら意思決定こそが競争優 位の機会をもたらすか、あるいは潜在的に企業を弱 体化させることになります。仮に企業ポリシーに反 する、あるいは無視した意思決定がされると、製品 の品質問題、環境問題、安全衛生問題、取引上の 責任、従業員の確保、セキュリティ・プライバシー等、 さまざまなリスクを生じさせます。プロセス内におい て違反や無視が繰り返されると、リスクがくすぶり始 め、やがて大きな脅威として顕在化します。

以上の「企業の姿勢」確立のための要点に対応するた めに、経営者ならびに取締役は、以下の行動をとる必要 があります。

  • 強固なトップの姿勢を展開するためにあらゆる取り組みを行う :トップの姿勢がやはりスタート地点であり、これなしには 始まりません。不適切な業績プレッシャーや、近視眼的 な短期利益への偏重、「上司恐怖症」に注意しなくて はなりません。また、経営者自身が、従業員の不適切 な行動に目を瞑ることもあります。強固なトップの姿勢 があるという過信もまた問題となります。
  • 企業の組織体制が企業文化を促進しているか、ある いは妨げているかを確認する : 例えば、フラットな組織体制では、経営トップ層がリスク を見落とす可能性が小さくなります。安全率を無視し たコスト・納期に関するインセンティブ等、報酬体制が 不適切なリスクをとらせることもあります。
  • ミドルの姿勢・ボトムの姿勢を定期的に評価すること を検討する : 行動の原動力となる信念体系を確認するために、企業 文化や企業の上下にわたる姿勢について、定期的な 独立した評価を行うことをお勧めします。リーダーシッ プと合致していない点を発見対応する必要があります。
  • 有効な上申プロセスを確立する。:  ある倫理に関するサーベイによると、2011 年に企業内 で不正行為を目撃した従業員の割合は45%で、2009 年の49%からは改善しています。これら不正行為を目 撃した従業員のうち、不正を報告した従業員の割合は 2011 年は65%で、2009 年の 64%から向上しています が、まだまだ改善の余地はあるといえます。[4]
  • 内部監査報告の中の警告情報に留意する : 内部監査は、総体的評価の一環として、あるいはさまざ まな分野での発見事項の集約を通じて、企業の姿勢 をモニタリングするのに重要な役割を果たします。トッ プ・ミドル・ボトムの姿勢の不一致が見られた場合、コア バリュー・価値観の再確認が必要となります。

[1] “Managers  and  Ethics:  The  Importance  of  ‘Tone  in  the  Middle’”,  Gael  O’Brien,  Business  Ethics 誌、2012 年 2月28日
[2] Boards  Should  Monitor  the  Tone  at  the  Bottom”  Dr.  Larry  Taylor,  NACD  Directorship 誌、2011 年 11月11日
[3] “The Coming Job Wars” Jim Clifton,  2012
[4] 2011 National Business Ethics Survey, Ethics Resource Center.

以下は企業の事業に内在するリスクに応じて、取締役会 が考慮すべき事項です。

  • 取締役会は、幹部社員の離職、重要な統制事項の耐 性、蛮勇な企業文化、近視眼的な短期利益の追求、 明白に独裁的な経営トップ等、トップの姿勢に問題があ ることを示す兆候に注意しているか。
  • 経営者は、事業部門並びに職能部門のミドルマネー ジャー以下と密接に連携し、各人が企業のビジョン、ミッ ション、コアバリュー、戦略と有効に歩調を合わせ、企業 全体に適切なメッセージと行動が展開されるように務 めているか。
  • 重要な問題が適切な階層で認識・対応されるよう、効 果的な上申プロセスが確立されているか。

プロティビティは、リスクマネジメントに影響する全社的統 制環境、組織体制、企業文化を評価する支援を実施し ています。

全ての関連情報は

こちらへ
Loading...