Risk Oversight vol.37 ワーキングキャピタルの管理:コストを最適化し、リスクを低減する

「Cash is King」とは言い古されているようでいて古くな ることがない至言です。レバレッジが利きすぎない程度で、 事業活動に必要な費用や金融コストを差し引いて正の キャッシュフローが残ってこそ健全なビジネスといえます。 キャッシュフロー管理の三大原則とは、①運転資本(ワー キングキャピタル)[1] とコストの最適化、②キャッシュフロー の予測、③流動性の管理です。以下では、①の運転資 本とコストの最適化について解説します。

日本語版PDF         英語版PDF

主要な考慮事項

2011 年、ベンチマーク・リサーチのリーディングファームで あるAPQCとプロティビティは共同で、企業の運転資本 を縮減し、資金運用を最適化するための有効な戦略とプ ロセスの策定についての取り組みに関するレポートを発 表しました [2]このレポートでは、3 つの企業の素晴らし い成果とアプローチに焦点をあてて、ベストプラクティスと いえる以下の4      つの分野について解説をしています。

運転資本管理を改善するためのビジョンと戦略

ベストプラクティスを実施している企業においては、オペ レーションレベルでの運転資本プロセスの改善を戦略目 標と関連させることで、定量化できる経済的利益を得て います。各オペレーションに用いられるキャッシュを縮減するためには、運転資本の最適化に関する経営者レベ ルのサポートや関与が必要です。財務取引処理の集中 と標準化により効率化を図り、データから有益な情報を 入手するとともに、運転資本に対する組織横断的な責任 の明確化及び継続的な売掛金ならびに買掛金プロセス の改善が重要となります。

運転資本管理を改善するための分析と手法

関連データ、指標、評価基準を識別することにより効果的 な意思決定を可能にすることが運転資本管理の中核と なります。ベストプラクティスを実践している企業は、ERP システムから得られたデータに基づき日毎の債権・回収状 況をモニタリングし、キャッシュフローの指標をリアルタイム で分析して信頼性の高い予測を実現するとともに、余剰 キャッシュを最適化し、オペレーションに投入している運転 資本のリターンを改善するために事業部門を評価・分析・ 指導しています。また、売掛金日数、延滞債権、棚卸資 産在庫日数/在庫回転率、買掛債務日数のような、自社 のビジネスモデルに関連する運転資本の評価基準を設 定しています。これらの企業は、自社部門のパフォーマン スを測定し、プロセスを改善する機会を追求し、指標、測 量、モニタリングを通じて運転資本管理に関するそれぞ れの役割について従業員を教育しています。

業績管理方針及び評価プロセスの改善

運転資本管理の改善についての事業部門の方針を戦 略目標の達成及び評価基準の導入と関連させる一方、 それらを測定・モニタリングすることも重要ですが、同時に、 継続的なプロセスの改善を行うことも必須です。ベストプ ラクティスを実施している企業では、品質・生産性に関す るツールを使用することで改善を図るとともに、財務事項 に関する変革管理の実践、プロセスの現場におけるデー タの不一致の是正、運転資本リスクの管理を行っていま す。初期の段階での品質の造り込みにより、会社、ベン ダー、カスタマーのシステムを一体化させることで、購買―支払、売上―回収サイクルの費用効率を改善すること が可能になります。

IT戦略・運用

ベストプラクティスを実施している企業ではITを利用して 運転資本管理プロセスの効率を改善しています。これ ら企業は取引を可能な限りIT 化して自ら効率を改善す
るとともに、ベンダー・カスタマーにも同様のことを求めます。 また、この場合、ITによるサポートが必要であり、財務部 門、他の従業員、ベンダー、カスタマーが必要な情報を適 時に入手できるようにしなければなりません。

  • AQPCのレポートでは、企業の運転資本管理能力を強 化するため、以下の4 つの要因を示しています。
  • 運転資本管理プロセスを企業戦略と合致させ、財 務取引プロセスを集中化させ、経営者レベルの十分 な支援ならびに関与を行う。
  • 運転資本管理に価値やリスクをもたらす要因を活用 して、ビジネスモデル特有の状況に合致した指標を 策定する。
  • 部門を超えた連携を行い、運転資本管理を継続的 に改善し続ける。
  • テクノロジを利用して効率化を図り、関連するプロセ ス改善を図る。

[1]    運転資本(ワーキングキャピタル)は一般的に、流動資産(現金、売買目的有価証券、売掛金、棚卸資産)から流動負債を差し引いたものを言う。
[2]    “Improving Working Capital Management and Cash Flow Intelligence” 2011 年 APQC・プロティビティ協同。www.protiviti.com から入手可能 

以下は企業のビジネスモデル・オペレーションに内在する リスクに応じ、取締役会が考慮すべき事項です。

  • 流動性の制約条件、棚卸資産の余剰、陳腐化、肥大 化、不適切な予測・需要計画、信用格付けの低下、売 掛金の滞留、支払(二重払い等)、運転資本比率の悪 化、人員解雇・施設閉鎖等、財務上ならびにオペレー ション上の運転資本に関する評価の必要性を確かめ る指標が存在しているか。
  • 自社の運転資本管理能力は、効率性・有効性の見地か らベストプラクティス企業と比較した場合どの程度か。

プロティビティは企業がプロセス管理能力を改善し、コスト を削減し、潜在的に喪失している資金を回収する支援を 実施します。プロティビティでは運転資本管理を改善す るために、(1)運転資本の必要性に関する新規・既存の リスクの源泉を識別する、(2)オペレーションを分析し、他 社をベンチマークすることで運転資本に関する事項を診 断する、(3)企業のビジネスモデル及びリスク許容度に照 らして運転資本ポリシーを再評価する、(4)現金、売買目 的有価証券、調達先選定、購買、売掛金、買掛金、棚卸 資産といった領域における運転資本の最適化を行う、と いう4 つのステップのプロアクテイブなアプローチを推奨し ています。

全ての関連情報は

こちらへ
Loading...