Risk Oversight vol.34 変化するリスク環境 ビジネス環境の変化に伴い、企業が直面しているリス ク環境もまた日々変化しています。世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)は今年初めグロー バルリスクに関する報告書の最新版を発表しました※1。 この報告書の目的は、企業並びに公的機関が国境のな いグローバルリスクを識別し、モニタリングし、対応する能 力を高めることにあります。 日本語版PDF 英語版PDF Topics 取締役事項 主要な考慮事項 WEFは約 50 個のリスクを、経済、環境、地政、社会、テク ノロジの 5 つのカテゴリに分類しています。さらに、各リス クを今後 10 年間の影響の重大性と発生可能性につい てマッピングすることで、長期的視点で役に立つ内容と なっています。相互依存が加速している国際社会のお ける変化の複雑性ならびに変化の速度のため、意思決 定の手法は根本的な変革を迫られており、事業計画に 結びつけた短期的視野のみに基づく年次リスク評価で は、上記 5 つのリスク環境のグローバルな大きな変化を見 落とすおそれもあります。この様な理由から、WEFの報 告書は検討に値するものといえます。 以下、5 つのリスクカテゴリの詳細について紹介します。 経済:WEFによると、今後 10 年のもっとも発生可能性 の高いマクロ経済上のリスクは、①原油・農産物価格 の乱高下に伴い生活に不可欠な日用品が入手困難 になり、政情不安や国際関係の緊張をもたらすリスク、及び②主要な金融機構・通貨システムが崩壊し、国際 金融システムを大きく揺るがすリスクとされています。ま た、WEFは全体的なグローバルリスク間のバランスに 影響を及ぼし、また過度の財政赤字対策に対する取り 組みが失敗した場合に恒常的財政不均衡をもたらし うる4 つの相互に関連する主要因に言及しています。 この主要因には上記①②のほか、③所得格差の拡 大、及び④産業構造・投資環境・市場競争原理を脅か す予期せぬ法規制があげられています。これらの要 因はすでにその兆候が現れており、企業や政府は引き 続き注視する必要があります。 環境:異常気象・地磁気異常といった天災のほか、公 害や動植物の絶滅を引き起こす乱獲など人為的な災 害があげられます。これらは長期的には経済や社会 を不安定にし、国際関係を緊張させ、重要資源を失わ せます。天災よりも都市の過密化や土地・水資源管理 の失敗など、人為的な災害のほうが今後 10 年間に発 生する可能性はより高いとされています。 地政:WEFは国際政治の混乱を影響の重大性で2 位に位置づけています。なお、1 位は大量殺戮兵器の 拡散ですが、これについては今後 10 年は国際政治の 混乱よりも発生可能性が低いとしています。また、発生 可能性の観点からは、腐敗のまん延、政情不安国家、 テロ、組織犯罪、外交摩擦、不法貿易等が、国際政治の混乱より高いと挙げられていますが、その影響度は 国際政治の混乱ほどはないとされています。 社会:このカテゴリに含まれるリスクは今後 10 年間発 生可能性が高いとされています。水資源の危機が最 も発生可能性・影響の重大性ともに高いとされ、次いで 食糧危機があげられています。急激な人口増加は、テ クノロジを除くすべてのカテゴリのリスクと関連します。 都市開発の行き過ぎ及び極端な所得格差をもたらす 持続不可能な人口増加は上記の「主要因」とも関連し ていて、全体系としての重要性を浮き彫りにしてい ます。 テクノロジ:サイバー攻撃(発生可能性・影響の重大 性が最も高い)から主要システムダウン(影響の重大性 は高いが発生可能性は低い)まで、「既知の不知」に 属する事項が挙げられています。5 つの全てのカテゴ リのリスクと相互関連があり、システムダウンはサイバー 攻撃、長期にわたるインフラ整備の欠如、想定外の法 規制の影響にも密接に関連するリスクです。 これらグローバルリスクは複雑かつ相互に密接関連して いるため、単独の国家、地域、セクター、産業で対応する ことは困難です。WEFは、企業経営者、政治家、調査 機関、一般大衆が念頭に置くべき3 つの要点を提唱して います。1 点目は、グローバルリスク対応にあたって国際 協調を高めるためのインセンティブの必要性です。2 点 目は、指導者層、公安システム、国際協調における信頼 関係がリスク顕在時において果たす役割です。3 点目は、一般大衆にリスク・不確実性の情報を伝えるためのより高 い透明性が必要であることです。 取締役会の考慮事項 以下は、企業の事業に内在するリスクの性質に応じ、取 締役会が考慮すべき事項です。 経営者は1 年または3 年~ 5 年といった短期間では顕 在化しないような、企業の戦略、ビジネスモデル、地政 的な位置づけに密接に関係する長期的なグローバル リスクについて考慮しているか。事業計画を策定する に当たって自社に関係するリスクを特定するために、リ スク間の相互影響に留意しているか。 経営者はビジネス環境における変化を定期的にモニタ リングし、企業戦略の前提条件や内在するリスクへの 影響を考慮しているか。取締役会は自社のリスクプ ロファイルの主要な変化に対して適時に対応してい るか。 プロティビティの支援 プロティビティは企業がリスクを評価し、リスクを管理する 能力を高める支援を実施しています。プロティビティでは、 企業のレピュテーション、ブランドイメージや企業価値を損 なう新たなリスクを含め、企業がリスクを識別・優先付けす る支援を実施します。 全ての関連情報は こちらへ