Risk Oversight vol.33 「M&Aリスクを監視する」

企業がM&Aに費やす金額は実に年間 3 兆ドルを超え ますが、ある研究結果 [1] によると、70 〜 90%は期待され た成果を達成できていないと報告されています。あまり に高い失敗率といえますが、同じような失敗が繰り返され ているのもまた事実です。そこで、買収先の選定、買収 契約の締結、買収後の経営統合に関連するM&Aリス クの軽減について取締役会によるリスク監視の役割 [2] が問題となります。

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主要な考慮事項

取締役会には良好なガバナンス体制の擁護、戦略策定 の監督、業績のモニタリングとともに、リスク管理の監視な らびに経営者への助言を行う役割があります。このこと はM&A活動においても例外ではありません。以下、買 収する側の企業の視点から、取締役会の役割について 解説します。

取締役は企業の戦略計画について承認する責任があり、 提案されたM&A 計画についても企業の戦略計画に即 して検討する必要があります。それゆえに、取締役会は M&Aによるメリット(コスト削減、買収シナジーによる収 益増加、新規市場への効率的参入、業績改善、リソース 確保等)を検討する上でも、当該 M&Aの目的とする戦 略を理解しなければなりません。M&Aを通じて成長性 を向上させる計画であるなら、取締役会は、経営陣の中 にM&Aを遂行し、事業を統合できるだけのスキルを有 する人材が入っているかを確認しなくてはなりません。
 
買収先候補の決定に当たっては、取締役は収益・費用の 見積り、シナジーによる収益およびシナジーの達成方法を 評価するための質問をしなければなりません。取締役は 当該買収に内在するリスク、また関係する企業風土や人 材について理解する必要があります。特に、戦略への適 合性および企業価値が増加するかという観点で当該買 収の目的を判断し、同意することが重要です。取締役は、 経営者が企業規模拡大に感情的になり、買収先を探す のに客観性を失っていないか注意しなくてはなりません。

また、M&Aリスクを低減する上ではデューデリジェンス プロセスが重要です。デューデリジェンスを通じ、経営者 の想定を検証し、買収額や財務的手当を検討し、法的 問題点を調査し、内部統制を評価し、会計基準や見積り をレビューし、企業文化の違いや人材の問題点を理解し、 利害関係者との取引を確認します。もっとも、経営者およ び取締役会の努力に関わらず、必要な情報が入手でき なければデューデリジェンスには自ずと限界があります。 買収を承認する前に、取締役会は慎重に経営者の統合 計画を検討し、統合の必要性、方法、責任者および統合 を妨げる障害が明らかになっているか確認しなければな りません。

多くの企業にとってM&Aはそう頻繁にあることではあり ませんから、取締役会と経営者は M&Aの過程におい て協議を行うべきプロセスを理解できていないこともあり えます。複雑でリスクの高い買収においては、取締役会 はデューデリジェンスプロセス、さらには買収後の統合プ ロセスの各段階において定期的な報告を受けるべきで す。デューデリジェンスの欠如や統合プロセスの監督不 足のリスクに対応するために、多くの企業ではM&A 案 件について取締役会全体や各種委員会が主導して対 処しているか、または当該買収および統合計画における 機会とリスクを特定するために、当該買収案件の経済性 や統合計画のレビューにより深く関与する目的で専門性 を有した者による特別委員会を編成して対処しています。 場合によっては、経営者の想定についてストレステストを 行い、過度の支払いを回避するために買収額を精査す ることもあるかもしれません。また、取締役会は特にリスク がある分野については外部専門家を活用し、貸借対照 表上のリスクや、税務・独禁法・贈賄防止等の法規制やコ ンプライアンスリスクについて客観的なデューデリジェンス を実施することも考えられます。

有効な経営統合のためには、企業文化の違いに対応し、 重要な人材を維持することが重要です。統合プロセス がどのように実行されるか注意し、重要な人材を維持す るために報酬体系を見直す必要があることもあるでしょう。 また、取締役は内部統制や会計処理の統合がレビュー されているかについて調査しなければなりません。

過去のM&Aについて振り返り、うまくいったこと・いかな かったことを整理し、将来のM&Aに活かすことも有用でしょう。その際も、戦略的観点から、M&Aによって期待 された結果が達成できたのかを評価することが重要とな ります。

[1]  ハーバードビジネスレビュー2011 年 3月号 “The Big Idea: The New M&A Playbook”
[2]    ここでいう「責任」は、必ずしも取締役会の法的な責任について解説するものではない

以下は企業の事業に内在するリスクの性質に応じ、取締 役会が検討すべき事項です。

  • 取締役会に買収先候補が提示される際、取締役は戦 略的観点から当該買収について評価しているか。
  • 複雑・ハイリスクな企業買収について、取締役会としての 監督を担保すべく、適時に経営者に助言しているか。

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