Risk Oversight vol.31 「オペレーションリスクの評価」

オペレーションリスクとは、企業の顧客価値の創出及び 売上・利益目標達成のためのビジネスモデルの有効性が、 将来的な事象によって阻害されるリスクです。オペレー ションリスクは、サプライチェーン、顧客満足充足プロセス、 人的資源、IT、主要チャネル、主要顧客、最終消費者等、 企業がビジネスモデルを構成するバリューチェーンに沿っ た種々のビジネス活動に関連します。

日本語版PDF         英語版PDF

主要な考慮事項

一般的に、オペレーション評価は品質、時間、技術革新、 コスト等の目標と実際のパフォーマンスを比較し、主要 ギャップを識別します。評価結果は、ギャップを埋めるた めの適宜な途中修正や、必要なプロセス改善を図るため の根本原因の分析に繋がります。しかし、オペレーション レビューにおけるこのような伝統的なアプローチが適切な のかは再考する必要があります。

今日のビジネス環境においては、企業にはもはや境界線 はなく、個々独立に存在するものではなくなってきていま す。過去 20 年間におけるグローバル化、アウトソーシング、 国境を越えた調達、ITやシェアードサービスセンターの登 場により、多くの企業において本質的でないあるいは無 駄な業務を削減するために組織の統合やプロセスの合 理化がなされ、残った業務に集中するとともに簡素化・自 動化が図られるようになりました。全体品質管理、プロセ スリエンジニアリング、シックスシグマによるプロセス改善 の趨勢はあらかじめ定められた品質基準に即しつつも、プロセス・製品のコストを削減し、サプライヤーとより強固 な関係を構築し、サプライチェーンと商流チャネルの結合 をより強く推し進めました。その結果、在庫量を高く保ち、 複数発注を実施し、その他プロセスバッファーを保つのに 相対するものとして、在庫量を減らし、グローバルな戦略 的サプライヤーへの単独発注、ジャスト・イン・タイム製造・ 供給手法の採用等の意思決定が加速しています。こ の意思決定では、品質、時間、コストが、事業継続より優 先するというトレードオフの判断がされることが多くなりま すが、日本やタイにおける天災で引き起こされたサプライ チェーンの崩壊は、このトレードオフ判断にはリスクがある という教訓を示しています。

したがって、オペレーションリスクに必要なリスク評価アプ ローチにおいては、バリューチェーンに関し、上流の主要 サプライヤーを含む供給者との関係ならびに下流の商流 チャネルやカスタマーリレーションから最終消費者に至る まで、企業を広く捉える必要があります。企業の外部と の関係はビジネスモデルの実現に密接に関連しています ので、内部プロセス、従業員やシステムと同様の重要性 を持ちます。そのため、オペレーションリスクの評価は、バ リューチェーンの主要なつながりの喪失のリスクを理解す る必要があります。他方、オペレーションに関する問題を 考える上で、内部のプロセスやシステムのみを検討する 従来の「枠の中」のアプローチでは大局を見損なうおそ れがあります。

オペレーション上の不備や予期しない天災によってバ リューチェーンの主要な構成要素が喪失したり、変化し た場合、企業のビジネスモデルはどのような影響を受ける ことになるかについて考える必要があります。例えば、重 要な原材料の戦略的サプライヤー等からの合理的なコ ストでの調達が断たれたり、合理的な価格での電力が使 用できなくなったり、資金調達の限度額がなくなったり、企 業が依存する主要従業員が退職したり、主要システム・ 施設がダウンしたり、主要商流チャネルが絶たれたり、輸 送手段が失われたり、主要な取引契約が打ち切られると いったバリューチェーン構成要素の欠落は、どのようなビ ジネス上のインパクトをもたらすでしょうか。言い換えれば、 あらゆる価値創造プロセスにおいて、バリューチェーンの 中の主要インプットまたはアウトプットの不足、断絶、品質 低下や顧客の喪失が生じたらどうなるでしょうか。このよ うな事態が生じた場合、企業はいつまで事業を継続でき るでしょうか。

オペレーションリスクを評価する際、経営者は以下の要因 を考慮すべきです。

  • 事象発生から、バリューチェーンの主要要素の欠落と いった企業への影響が生じるまでの期間・速度。(しば らく「くすぶって」から影響することもあれば、一気に影 響することもあるでしょう。)
  • 影響の持続性。欠落した要素を回復するまでの期間。
  • 要素が欠落するに至った災害に対する企業のレジリエ ンス(耐性)。
  • バリューチェーン全体において、企業が直面するリスク の規模。(例えば、補償費用の増大や製品のリコール、 大規模な環境衛生安全上の問題等)

これらの事項についてはオペレーションを点検する際に 定期的に検討するのがよいでしょう。その際、「発生の 可能性」もひとつの考慮事項ではあるものの、災害事象 に対するリスクを評価する際には発生可能性にとらわれ ず、危機に対応する際の企業の対応準備度等、より重要 な考慮事項があることも念頭に置く必要があります。遅 かれ早かれ、あらゆる企業は危機に直面することがある という前提で検討するべきです。

以下は企業のビジネスに内在するリスクの性質に応じ、 取締役会が考慮すべき事項です。

  • 自社のリスク評価プロセスにおいてオペレーションリスク について広い視点で実施しているか。
  • 自社ではサプライチェーンリスクを評価する際、事業継 続の観点についても考慮しているか。
  • 戦略的サプライヤーの喪失、主要な原材料の一時的 不足、輸送手段の大規模な喪失、主要取引先の喪 失、主要従業員を失わしめるような疾病等に対する対 応プランはあるか。

プロティビティでは企業の主要リスクを識別・管理する支 援を実施しています。プロティビティは独立した立場で、 オペレーションリスクを含む、企業が直面するリスクの特 質に応じた分析評価を実施します。

全ての関連情報は

こちらへ
Loading...