Risk Oversight vol.30 「戦略リスク評価」

戦略リスクとは、①ビジネスモデルが経営戦略を効果的 に反映していないか、②戦略の前提条件と現実の事業 環境にズレが生じ、その結果経営戦略が新しい状況を 反映しなくなるリスクです。企業内部のプロセスの問題 や企業外部のビジネス環境の大きな変化に起因するこ れらのリスクは経営者や取締役会の目が届かないと、致 命的なリスクとなりかねません。

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主要な考慮事項

戦略リスクの分析は容易ではありません。戦略リスクは オペレーショナルリスクのように分析的フレームワークを適 用して綿密な評価をすることができないため、より定性的 にならざるを得ません。

​ 効果的な戦略とは企業にとってリスクと報酬の望ましいバ ランスの中で最大の利益を追求することにあるため、戦 略リスクは通常、マイナスの危険を許容するだけのプラ スが見込まれる「見返りのある」リスクとなります。例えば、 新市場に事業進出したり、新製品を投入したり大がかり な研究開発を実施することに伴うリスクはこれらの活動 が企業の戦略遂行と不可分であるため、「見返りのある」 リスクに当たります。これに対し、「見返りのない」リスクは、 ほとんどあるいは全くプラスをもたらさず、ただマイナスの みをもたらす一方的なリスクです。私たちの経験では、多 くの管理者はリスク評価において、リスクは「見返りのない もの」という思い込みにとらわれています。戦略リスクは 多くの場合、現在わかっていないことに関わることが多い ため、この従来の思考方法では、戦略リスクを評価する のは困難です。 戦略リスク分析により上級経営者は戦略の主要な前提 条件を理解し、反対思考アプローチを活用してこれらの 前提条件に疑問を投げかけることができます。以下は 具体的なアプローチです。

まず戦略の前提条件を定義する

これらの前提条件は、戦略策定の際における一定期間 についての経営者のものの見方を反映しています。(例 えば企業の能力、競業他社の能力、顧客の嗜好、技術ト レンド、資本の余裕度、経済トレンド等)

最重要の前提条件のそれぞれについて、反対の状況 を仮説として想定する。

これらの仮説は戦略の前提条件を無効とするのが何で あるかを特定し、前提条件に及ぼすその影響はどの程 度かを把握します。例えば、福島の原発では高さ20フィー トを越える津波が発生する最悪シナリオを極めて低いリ スクとみていました。この反対状況を仮説すると、地質 学上 1000 年に1 度は発生しうる40フィート超の津波を想 定することになります。反対状況の仮説が定義されれば、 経営者はそのうち発生した場合、自社にもっとも大きな影 響を及ぼすシナリオを抽出し、それをより詳しく検討するこ とになります。

影響の大きい反対状況の仮説が起こりうるシナリオのうち、発生可能性の高いものとさほど高くないもの を識別・分析する

大きな影響を与える反対状況の仮説とは、その時点では 当該企業が十分な情報を有さず、発生した後になってか ら「なぜ事前に予期できなったのか」と自問するような事 象です。更なる分析を必要とする場合には、経営者は起 こりそうにもない事象や反対の状況の仮説が現実味をお びるような、別のシナリオを識別しなければなりません。最 終的なシナリオのリストは、影響度、持続性、速度、対応準 備度等の指標をもって評価しうる数に収めなければなり ません。そのためには、複数のシナリオについて類似性・ 関連性を考慮し、真に重要な数個へと絞り込まなくてはな りません。

影響度の大きい反対状況の仮説が示すところを一体 化する

このステップこそが終着地点です。実際には、反対状況 の仮説は「当社の戦略の前提条件がすでに無効となっ ていた場合どうするか」「前提条件が無効となっていな いことをどのよう確認するのか」という2 つの点を考慮す るものです。企業に最大の影響を及ぼすシナリオについ ては、それらのシナリオが発生したあるいは発生しつつあ ることを示す指標を識別することが有効です。その後で、 経営者は早期警戒システムを構築するために、①適切な KRI(主要リスク指標)、傾向値並びに情報収集機能に組み込むべき情報を決定し、②速度の速いシナリオに対 する企業の対応準備度を強化する適切なレスポンスプラ ンを策定します。

現在わかっていないことを知っていると断言することはで きないにせよ、知見のある管理者が戦略的に思考し、非 難されることなく前提条件について建設的に自由に議論 できる環境を作る手法は存在します。反対状況分析プ ロセスによって、企業戦略をより強固なものとする新たなア イディアを生み出すことができるのです。

以下は企業の営む事業に内在するリスクの性質に応じ、 取締役会が考慮すべき事項です。

  • 企業の戦略の主要な前提条件について経営者と取 締役会に共通の理解があるか
  • 戦略の前提条件について確認するプロセスがあるか
  • 主要前提条件の継続的有効性を洞察するための主 要指標を常時モニタリングしているか

プロティビティは、取締役が主要リスクを識別し、管理する ことを支援します。プロティビティでは実績に基づき、企 業内部の人たちから独立した偏りのない視点から、戦略 リスクを含む企業が直面する独特のリスクについて分析 的評価を実施します。

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