Risk Oversight vol.3 (日) 「知らないこと」を知る 金融危機からの教訓を一つあげるとすれば、それは「知っていることよりも知らないことの方が重要かもしれ ない」ということです。「私達は一体、自分達が知らない ことをどれだけ理解しているか」という究極の問題を提起 しています。 日本語版PDF 英語版PDF Topics 取締役事項 主な考慮点 現在の経営環境において、経営者および取締役会は、 知るべきことは全て知っているという確信を持てないとい うのが現実ではないでしょうか。ただ、そのような不確実 性(リスク)に対応するために以下の 8 つを検討すること はできます。 最悪の不確実性(リスク)は、知らないことに気づいて いないこと:経営執行陣は、確かに内部や外部から情 報を得ることができます。しかし自分達が何を知らな いのか本当に理解しているでしょうか?知るべきことを すべて知っているということは大変難しいでしょう。そ のため、経営者の戦略上の選択やリスクの受け入れ においては、「知らないかもしれないこと」に対する許 容誤差を考慮にいれておかなくてはなりません。 過去の実績数値や事例、世論調査やマスコミの報道 等を偏重することは、誤った確証の形成につながる恐 れがある:事実に基づく経営は、現状の事実を理解し、 現実と直感を区別するのに不可欠な方法です。直感 での判断を求められる際、経済活動や顧客行動を予 測するために過去のデータに依存し過ぎると、戦略的なミスを犯してしまう恐れがあります。従って、前提と なっている予測手法を鵜呑みにせず、ビジネスモデル の安定性を検証するために「もしも…」のシナリオで多 角的視点から将来予測を検討し、ひとつのケースでは なく、幅広い可能性を検討するべきです。 組織の盲点:過度のレバレッジとリスクテイキングによっ て変動する量的基準(収益の伸び、新規ビジネス等) に基づいた報酬制度には注意を払うべきです。なぜ ならば、それらは戦略変更が必要となるような市場動 向の変化を見逃すことにつながる恐れがあるからで す。経営者は、重要な金融・財務モデルに内在する 前提は、過去と未来で同じになるとは限らないというこ とを強く意識すべきです。 「先行者」という選択が生み出す時間的価値:不確実 性のレベルを定量化するモデルが意思決定者に提供 され、それがモデリングプロセスや現実と乖離してい る場合には注意が必要です。金融危機のさ中、市場 で資産価値のテストを実施した金融機関は、住宅価 格が急激に落ち込むことを予測することができました。 これらの企業は危機発生の 12ヶ月前からリスクのエク スポージャーの低減に動きだしています。このように、 時代遅れの戦略から抜け出した先行企業は、より有 利なポジションに辿り着くことになります。 遅かれ早かれ事業の根本に変化が訪れる:そのような 変化が起きた時、企業のリスクプロファイルも変化する 可能性があります。例えば、先行する競合他社による市場シェアの獲得行動や、経営者による新規事業買 収や新規市場への参入等は、リスクプロファイルに大 いに変化を及ぼします。リスク評価プロセスにおいて、 現実のまたは予測される変化を慎重に検討するべき です。 事前の対応 ( 準備 ) が最善の対応につながる鍵:「私 達は何を知っているのか」と質問するより、「私達は予 期せぬ出来事に対してどのような準備ができているの か」と質問する方が適切かもしれません。適切な準備 とは、以下の3つが機能することです。(1)現実的な 前提に基づいた健全な戦略と、知識および透明性を 備えたリスクテイク、(2)戦略達成を阻害する複数のシ ナリオについて検討する時間の確保、(3)適切な対応 計画の策定。火がついた後に委員会を招集すること は、火を消す適切な方法にはなりえません。 経営者が心から恐れている懸念事項があり、それら が放置されていないか?:心配で眠れないような「思い もよらない出来事」が確実に特定されるように、定期的 に“ブラックスワン( ありえない事象・) ワークショップ ”を 行っていますか?新たなリスクシナリオに対して対応計 画が必要となるかもしれません。その場合、リスク管理 と危機管理の取り組みは、この時点で連携します。 誤った仮説・前提に対する厳しい目:戦略に内在してい る前提を取締役会は理解していますか?これらの前提 が現在でも有効であるかどうかを確認するため、従来 の計画と予算のプロセスとは別に、事業環境をモニタ リングするビジネスインテリジェンスプロセスは存在しま すか?何より、そのプロセスは、必要となった場合、適時 に重要な前提の変更を勧めていますか? 取締役会の検討事項 取締役会が事業内容に照らし合わせて考慮すべき、参 考となる検討事項の例は以下のとおりです。 企業のリスクプロファイルの重要な変更は、取締役会に 適時に報告されているか。新たなリスクや、ブラックス ワンと思われる事象を特定する為のプロセスが備わっ ているか。そのプロセスの結果、適時に適切な対応計 画が設定されているか。 事業戦略に内在するリスクや前提条件への影響を特 定するために、経営執行陣が実施する事業環境変化 の定期的な評価について、取締役会は満足している か。経営戦略は、必要に応じて適時に変更されてい るか。 新規事業の買収、新規市場への参入、新製品の導 入、または経営戦略の重要な変更等の決定について、 取締役会は十分に関与しているか。 戦略策定にあわせて、リスクプロファイルを評価する時間 が十分に確保され、取締役会が企業にとって重要なリス クを理解できるようになっているか。リスクプロファイルは 経営戦略の軌道修正に伴って、更新されているか。 取締役会は、どのくらいの頻度で想定外の企業業績 に驚かされているか。また、企業業績が低迷している 際の経営プロセスの改善に満足しているか。 プロティビティによる支援 プロティビティは、取締役会や経営者による全社的および 事業単位におけるリスクの評価やリスク管理能力の評価 を支援しています。プロティビティでは、企業の評価やブ ランドイメージ、企業価値を損なう可能性のあるリスクの 特定や、優先順位付けを支援いたします。 全ての関連情報は こちらへ