Risk Oversight vol.3 (日) 「知らないこと」を知る

金融危機からの教訓を一つあげるとすれば、それは「知っていることよりも知らないことの方が重要かもしれ ない」ということです。「私達は一体、自分達が知らない ことをどれだけ理解しているか」という究極の問題を提起 しています。

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主な考慮点

現在の経営環境において、経営者および取締役会は、 知るべきことは全て知っているという確信を持てないとい うのが現実ではないでしょうか。ただ、そのような不確実 性(リスク)に対応するために以下の 8 つを検討すること はできます。

  1. 最悪の不確実性(リスク)は、知らないことに気づいて いないこと:経営執行陣は、確かに内部や外部から情 報を得ることができます。しかし自分達が何を知らな いのか本当に理解しているでしょうか?知るべきことを すべて知っているということは大変難しいでしょう。そ のため、経営者の戦略上の選択やリスクの受け入れ においては、「知らないかもしれないこと」に対する許 容誤差を考慮にいれておかなくてはなりません。
  2. 過去の実績数値や事例、世論調査やマスコミの報道 等を偏重することは、誤った確証の形成につながる恐 れがある:事実に基づく経営は、現状の事実を理解し、 現実と直感を区別するのに不可欠な方法です。直感 での判断を求められる際、経済活動や顧客行動を予 測するために過去のデータに依存し過ぎると、戦略的なミスを犯してしまう恐れがあります。従って、前提と なっている予測手法を鵜呑みにせず、ビジネスモデル の安定性を検証するために「もしも…」のシナリオで多 角的視点から将来予測を検討し、ひとつのケースでは なく、幅広い可能性を検討するべきです。
  3. ​組織の盲点:過度のレバレッジとリスクテイキングによっ て変動する量的基準(収益の伸び、新規ビジネス等) に基づいた報酬制度には注意を払うべきです。なぜ ならば、それらは戦略変更が必要となるような市場動 向の変化を見逃すことにつながる恐れがあるからで す。経営者は、重要な金融・財務モデルに内在する 前提は、過去と未来で同じになるとは限らないというこ とを強く意識すべきです。​
  4. 「先行者」という選択が生み出す時間的価値:不確実 性のレベルを定量化するモデルが意思決定者に提供 され、それがモデリングプロセスや現実と乖離してい る場合には注意が必要です。金融危機のさ中、市場 で資産価値のテストを実施した金融機関は、住宅価 格が急激に落ち込むことを予測することができました。 これらの企業は危機発生の 12ヶ月前からリスクのエク スポージャーの低減に動きだしています。このように、 時代遅れの戦略から抜け出した先行企業は、より有 利なポジションに辿り着くことになります。​
  5. 遅かれ早かれ事業の根本に変化が訪れる:そのような 変化が起きた時、企業のリスクプロファイルも変化する 可能性があります。例えば、先行する競合他社による市場シェアの獲得行動や、経営者による新規事業買 収や新規市場への参入等は、リスクプロファイルに大 いに変化を及ぼします。リスク評価プロセスにおいて、 現実のまたは予測される変化を慎重に検討するべき です。
  6. 事前の対応 ( 準備 ) が最善の対応につながる鍵:「私 達は何を知っているのか」と質問するより、「私達は予 期せぬ出来事に対してどのような準備ができているの か」と質問する方が適切かもしれません。適切な準備 とは、以下の3つが機能することです。(1)現実的な 前提に基づいた健全な戦略と、知識および透明性を 備えたリスクテイク、(2)戦略達成を阻害する複数のシ ナリオについて検討する時間の確保、(3)適切な対応 計画の策定。火がついた後に委員会を招集すること は、火を消す適切な方法にはなりえません。​
  7. 経営者が心から恐れている懸念事項があり、それら が放置されていないか?:心配で眠れないような「思い もよらない出来事」が確実に特定されるように、定期的 に“ブラックスワン( ありえない事象・) ワークショップ ”を 行っていますか?新たなリスクシナリオに対して対応計 画が必要となるかもしれません。その場合、リスク管理 と危機管理の取り組みは、この時点で連携します。
  8. 誤った仮説・前提に対する厳しい目:戦略に内在してい る前提を取締役会は理解していますか?これらの前提 が現在でも有効であるかどうかを確認するため、従来 の計画と予算のプロセスとは別に、事業環境をモニタ リングするビジネスインテリジェンスプロセスは存在しま すか?何より、そのプロセスは、必要となった場合、適時 に重要な前提の変更を勧めていますか?

取締役会が事業内容に照らし合わせて考慮すべき、参 考となる検討事項の例は以下のとおりです。

  • 企業のリスクプロファイルの重要な変更は、取締役会に 適時に報告されているか。新たなリスクや、ブラックス ワンと思われる事象を特定する為のプロセスが備わっ ているか。そのプロセスの結果、適時に適切な対応計 画が設定されているか。
  • 事業戦略に内在するリスクや前提条件への影響を特 定するために、経営執行陣が実施する事業環境変化 の定期的な評価について、取締役会は満足している か。経営戦略は、必要に応じて適時に変更されてい るか。
  • 新規事業の買収、新規市場への参入、新製品の導 入、または経営戦略の重要な変更等の決定について、 取締役会は十分に関与しているか。
  • 戦略策定にあわせて、リスクプロファイルを評価する時間 が十分に確保され、取締役会が企業にとって重要なリス クを理解できるようになっているか。リスクプロファイルは 経営戦略の軌道修正に伴って、更新されているか。
  • 取締役会は、どのくらいの頻度で想定外の企業業績 に驚かされているか。また、企業業績が低迷している 際の経営プロセスの改善に満足しているか。

プロティビティは、取締役会や経営者による全社的および 事業単位におけるリスクの評価やリスク管理能力の評価 を支援しています。プロティビティでは、企業の評価やブ ランドイメージ、企業価値を損なう可能性のあるリスクの 特定や、優先順位付けを支援いたします。

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