Risk Oversight vol.29 「レピュテーションリスクを管理する」 レピュテーションとは複雑な概念です。レピュテーション はビジネスを営む必要要件とも言え、喩えて言うならコン サートやスポーツの試合のチケットのようなもので、まさに それなしでは入口にすら入れない、というものです。他 方、レピュテーションは実に脆いものでもあって、何十年も かけて築き上げた企業のレピュテーションが数日のうちに 崩れ去ることも多々あります。レピュテーションとは何なの かを適確に定義するのは難しい一方で、レピュテーション が重要であること、修復不可能なまで失われたレピュテー ションの例があることは、誰しもが認めるところでしょう。 日本語版PDF 英語版PDF Topics 取締役事項 主要な考慮事項 リスク監視の観点からは、企業のレピュテーション管理は、 リスク管理・危機管理と不可分の関係にあります。つまり、 リスクの効果的な識別・管理により、レピュテーションに対 する深刻な脅威を明らかにし、許容レベルまで抑制する ことが可能になります。また、効果的な対応計画・体制に より脅威が現実化したときのレピュテーションダメージを最 小化することが可能になります。このように、レピュテーショ ンリスクの管理にはリスクの効率的な識別・管理と効果的 な対応計画・体制の双方が重要となります。 レピュテーション維持のための基盤は企業文化です。企業 にとっての「盲点」、目が届かない箇所があると、上級経営者 は、第三者が遠くから容易に見つけることができる明白な異 常に気がつくことができず、企業のレピュテーションがリスクに さらされます。また、レピュテーションの維持を目標とした企業文化は強固な統制環境、バランスの取れた報奨制度、結果 に対する明確な説明責任、開かれたコミュニケーション環境、 透明性のある開示・報告、継続的なプロセス改善、倫理に根 ざした責任ある企業行動を促進します。 レピュテーションリスクの管理は有効なリスク評価プロセスか ら始まります。レピュテーションの観点からは、発生の可能性 と影響の重大性に加えて、①事象発生から影響が生じる までの速度、②影響の持続性、③企業の事象への耐性、を 考慮することが重要です。これらは経営者がレピュテーショ ンに対する脅威を識別するのに役立つ指標です。 また、レピュテーションリスクを管理する上で複雑な要因となる のが「、境界のない」企業形態です。バリューチェーン全体 に起因するプラスサイドのないリスクはレピュテーションリスク の源となりえます。これらのリスクは、ほとんどあるいはまったく プラスの要因なく大きなマイナスのみをもたらす壊滅的事象 に結びつくことが多く、レピュテーションに深刻なダメージを与 えかねません。例えば、事業を中断させるサプライチェーン の寸断、巨額の補償や製品のリコール、新聞の見出しを飾る ような環境衛生上の問題等がありえます。また、サプライヤー が法規制の基準を満たさない鉛、有毒物質、不純物を供 給することで、企業のブランドやレピュテーションが毀損される こともありえます。CSR 活動を通じて企業はレピュテーション を向上させ、サプライヤーにも責任ある企業行動を求める ことができます。深刻かつプラスサイドのないリスクに対し ては予防こそが重要です。その意味で、戦略的サプライ ヤー、チャンネルパートナーやM&A 先を選定する時の効果的なデューデリジェンスには十分に時間を費やさなけれ ばなりません。 レピュテーションを向上させるにはイノベーションもまた重 要です。差別化された戦略、特徴のある製品・ブランド、 商標権、革新的プロセス等により、企業は強固持続的な レピュテーションを有することができます。その結果、優 秀な人材を採用・育成することができ、そのことがレピュ テーションを向上・維持する基礎となります。 レピュテーションへのダメージは不十分なリスク管理から 生じることが多くあります。戦略の失敗や思いがけない 業績悪化は投資家の信頼を失墜させます。オペレー ション上の重要な懸念事項、例えば、重大なセキュリティ 漏洩、品質上の欠陥、操業停止などは顧客・市場シェア を失わせ、レピュテーションを大きく損ないます。法令違 反や契約違反もまた処罰、罰金、賠償や損失につながり、 トップの姿勢に疑問を抱かせます。上場企業にとっては 財務報告も重要なコンプライアンスリスクです。 危機管理もまた有効なレピュテーション管理の重要な要 素です。どのような企業であっても危機に瀕することはあ り、突然の予期しない事象に対する迅速かつ効果的な 対応によってレピュテーションを逆に高めることができます。 影響が大きく、速度が早く、持続性が大きいリスクに備え た危機管理体制を整えておくことは経営者にとって必須 です。深刻な危機に対してグローバルレベルの対応を 実施することは企業の回復に不可欠で、そのためには訓 練を積んだ危機管理チームによって定期的に更新・評価 された危機管理計画ならびに法務部門によってあらかじ め了承された情報伝達計画が必要です。 また、企業は市場や業界に周知するためにどのようにメ ディアを活用すべきか明確に意識する必要があります。 ソーシャルメディアは市場や顧客と結びつき、プロセスや 製品を改善するための洞察を得る新たなモデルを提供し ます。今日の環境では、企業はブランドを勝手に使ったり、 悪用したりする第三者に注意を払わなければなりません。 共有ドメイン、ソーシャルネットワークサイト等の新規サービ スは、企業の製品やサービスにダメージを与えうるコメント の媒体となりかねません。企業は危機の時にどのように 対応するかをあらかじめ考えておく必要があります。 最終的には、自社のレピュテーションを守る責任は CEO 及び取締役会にあります。CEOと取締役会は、企業の ビジネスを理解し、社内で尊敬を集める上級の人材に よってリスク評価がなされるようにしなければなりません。 取締役会の考慮事項 以下は事業のリスクの性質に応じて、取締役会が考慮 すべき事項です。 経営者が自社のレピュテーションを維持・向上させるた めの基本的事項に留意しているか。 リスク評価プロセスにおいて自社のレピュテーションに 対する主要な脅威を明らかにし、 備えを改善するた めに対応計画の検討を要する分野を識別しているか。 経営者は企業のリスクプロファイルの大きな変化につ いて取締役会に適時に知らせているか、また新規に顕 在化するリスクを識別するプロセスがあるか。 プロティビティの支援 プロティビティでは、企業のリスクを評価し、レピュテーショ ンの毀損を含む最重要リスクを管理するための戦略・手 法について、取締役会・上級経営者を支援します。 全ての関連情報は こちらへ