Risk Oversight vol.25 「デリバティブ取引リスクを低減する」

最近、ある米国主要銀行が 20 億ドルの損失を被った旨 公表しましたが、これはデリバティブ取引の失敗がいかに 重大な結果をもたらすか示しています。デリバティブ取 引は金融機関以外の企業でも広く行われていることから すれば、取締役や経営者は、自社の金融商品の取引が 不適切でかつ承認なしで行われた場合、重大な結果を もたらす可能性があることについて認識しなければなりま せん。

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主要な考慮事項

デリバティブを管理する上で「トップの姿勢」が重要です。 従業員の無節操な行動は、企業が設定した方針・コント ロールを弱体化させ、不適切なリスクテイクを引き起こす 企業内の「ブラインドスポット」( 盲点 )を生み出しかねませ ん。情報の不透明性、利益の相反や、「弱肉強食」「都 合の悪い知らせには耳をふさぐ」ような企業文化は不適 切な行動を助長します。 職務分掌や実行・承認権限を含む効果的な内部統制の 構築は、権限のない取引・投機に対する第1の防止策に なります。リスクコントロールポリシーが遵守されることを確 実にするためには、文書化されたリスクの限度額、取引先 の評価、きめ細かい監督等が必須です。ミドルオフィス・ バックオフィスによるキーコントロールの継続的モニタリング 及び不適切な行動についての効果的な報告は第2の防 止策です。そして、適格な内部監査人による独立した評 価が第3の防止策となります。

  1. このような企業文化及び有効な内部統制による防止 策に加え、以下は取締役会や経営者が考慮すべき項 目です。
  2. 自社は投機目的でデリバティブを利用している か。そうであれば、誰が取引を実施し、それは何 故か。 投機目的でのデリバティブ取引は、リスクを管理 する目的でのデリバティブ取引と性質が異なりま す。内部統制により目的外の行為を識別するた めには、目的の明確化が重要です。​
  3. 自社のシステムにより、常に自社の現状が把握で きるようになっているか。 金融市場は短期間に大きく変化するので、現状評 価を一定期間おきに実施してもあまり役に立ちま せん。
  4. 自社のリスクの源泉及び事業への影響を把握し ているか。 全社的なリスクの理解と個々の事業部を含む自 社の活動がリスクに及ぼす影響の理解は必須で す。関連するリスクの理解には、事業部、製品、取 引先及びマーケットの見通しが含まれます。​
  5. 自社の現状をどのように評価しているか。 取引頻度や自社のポジションを踏まえてデリバ ティブ取引に注意をはらうことが重要です。資産、 利率、為替レート、インデックス等により評価される流動性デリバティブについて第三者評価を引 用しているなら、そのポジションが相当なもので、 かつその複雑さが取締役ならびに・経営者の理 解を超えるものであれば、市場の変化に対するリ スクは増大します。これらの“ 標準的でない商品” の評価は、同種取引の市場価値と関連しない数 式により算出されている可能性もあります。利回 り曲線、ボラティリティ他に関する前提条件は予 期しない市場の変化によって容易に無効になり ます。流動性リスクや資産を現金化できない損 失の可能性は、非流動資産の性質・価値・量によ り、不都合な影響を及ぼしかねません。​
  6. リスクヘッジ目的でデリバティブを利用している なら、ヘッジ目的及びヘッジ期間はいつまでか。 ヘッジ目的が何であろうと(利率リスク、為替リス ク、流動性リスク等)、何らかの基礎リスクがある はずです。多くの場合、基礎リスクは金融ヘッジ 後の残存リスクを指し示します。例えば、利率ス ワップでは、基礎リスクはふたつの変動レート指 標間の差異になります。企業が借り入れを変動 レートから固定レートに変える場合、スワップが LIBOR建てでありながら、同社の資金調達戦略が コマーシャルペーパーの利率に基づくことになっ ている場合、そこに基礎リスクが存在します。​
  7. 自社の報酬制度は容認できないリスクテイクを 助長していないか。 重大なリスクを伴う事業部にとって、重大な事業 リスクを生じさせるプロセスを識別することが有 効です。新規市場リスク、取引先リスク、事業集中 リスク、商品価格リスクに関わる取引はその一例です。トレーダーが引き起こすリスクや、収益が 実現するまでに企業がリスクにさらされる期間を 勘案せずにトレーダーに報酬を与えることは不適 切なリスクテイクを生じさせるおそれがあります。 報酬の削減、分割払い等の手法により、報酬とリ スクの結果、実際の業績を調整することができる でしょう。​
  8. 自社のデリバティブ取引を監視しているのは 誰か。 デリバティブの性質・範囲によって、デリバティブ の適切な活用や管理責任の所在はCEO、CFO、特 定の部署等々考えられます。同様に、取締役会も また、独立委員会や特別委員会等を通じた適切 な監視アプローチをとる必要があります。

取締役会の考慮事項

企業のデリバティブの性質・範囲に応じ、取締役会は上 記項目について考慮すべきでしょう。

プロティビティの支援

プロティビティは、金融業・エネルギー業界等の企業が、企 業の目的に即し、金融商品取引に関する方針、手続、統 制環境の整備を支援します。また、取引の損失に関する 調査、管理部署や内部監査部署がポートフォリオの潜在 的なリスクを評価するのに関して豊富な実績があります。

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