Risk Oversight vol.24 「独立したリスク委員会の意義」

ドッドフランク法( 米金 融改革法 )は、100 億ドル以上 の資産を有し上場している銀    行及び連邦準備銀行(Federal Reserve)の監督下にある銀行以外の金融 機関について、独立取締役により構成された独立リスク 委員会の設置を要請しています。今後、この要請が金 融機関以外の企業における取締役会のリスク監視にも 波及効果をもたらす可能性もあります。本ニュースレター では、独立したリスク委員会の意義について解説します。

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主要な考慮事項

取締役会は戦略に対する全般的な責任の一環として、リ スク監視に関する全般的責任を負っています。取締役 会は、法令により特に要求されている場合を除き、自社の 規模、体制、業務の多様性、企業文化やリスクプロファイ ル、さらには取締役会の規模や構成や体制に応じ、取締 役会自体を柔軟に組織化することができます。したがっ て、取締役会は、法規制上の要請に効果的・効率的に応 えるために、特定のリスク監視の責務を適切な委員会に 割り当てることもできます。

独立したリスク委員会は、かならずしも一律に各社に適 するわけではありません。状況によって、独立リスク委員 会の設置が有意義なこともあるでしょう。例えば、リスク委 員会を別途設置することで、監査委員会は中核である財 務報告に関する責務に専念することができるようになりま すし、特に複雑なマーケットリスク、クレジットリスク、流動性 リスク及び商品価格設定リスク等を伴う企業においては、取締役が最重要リスク及びその管理に焦点をあてること ができます。リスク委員会はまた、経営陣及び取締役会 双方にとって、リスクを識別・管理する統合的・全社的アプ ローチを助長し、リスク報告・モニタリングの質の改善に向 けての推進力になります。このアプローチにより、取締役 会はより大局的な構図を把握することができるようになりま す。さらには、このアプローチは広汎なリスク管理責任を 担う役員をサポートし、リスク管理に配分されたリソースの 適正性についても取締役会レベルによる注意が払われる ことになります。

もっとも、独立したリスク委員会は万能ではありません。委 員会の有無より、事業及び事業に伴う主要リスクについ て深い知識のある独立取締役が十分いるかを検討する ほうがより重要です。リスク委員会があるということだけ で企業内のリスク管理プロセスのギャップがなくなるわけ ではありませんし、リスク委員会の能力は結局のところ社 内リスク管理プロセスへのインプット・リスク管理プロセスか らのアウトプットの質や、社外のリソースからの情報や洞 察の質に左右されるものです。リスク管理に関する問題 が他の委員会の業務と重複することが起こりえます。ほ とんどの取締役はすでに複数の委員会に所属している でしょうから、さらに委員会の数を増やすことはかえって取 締役会の焦点をぼかしてしまうおそれもあります。ニュー ヨーク証券市場上場企業においては、仮に取締役会が 独立したリスク委員会を設置した方が適切と判断した場 合でも、監査委員会が経営陣とリスク評価・リスク管理に関する企業ポリシーについて協議することを要求してい ます。また、リスク委員会の設置が他の取締役メンバーを してリスクに関する問題をリスク委員会に任せてしまい、リ スクについては取締役会全体の問題ではなくリスク委員 会の問題だと考えてしまうことは避けなければなりません。

独立したリスク委員会が必要と判断された場合、他の委 員会のリスク監視に関する責務との兼ね合いも念頭にお きつつ、リスク委員会は以下の役割を担うことになります。

  • 主要リスクを識別・管理・モニタリングする強固なプロ セスが存在するか確認し、その運用を監視し、ビジネ ス環境の変化に応じた継続的なプロセスの改善を 確実にする
  • 主要リスクに関する問題について迅速に上級経営 者に情報を提供する
  • 事業環境が変化し、新たな機会が生じるに際し、経 営陣とリスク選好について継続的に対話を持つ
  • 主要な全社的リスクの識別・報告を含め、全社的リス クの評価の実施及び結果のレビューについて監督 する
  • 複雑かつ重要なリスクの管理を監視し、その分野の 専門性を有する取締役によって構成される他の委 員会に注意喚起する
  • リスク監視に関連し、既存の委員会の活動を調整する
  • リスク管理プロセスの有効性を損ない、不適切なリス クテイクにつながりかねない企業内の不適切な行動 に注意する。例えば、報酬委員会と共同で、報酬制 度の性質やバランスが、不適切なリスクテイクにつな がらないか注意する

リスク委員会規定において、リスク委員会の活動は取締 役会の全般的なリスク監視を補助するものであることを 明文化すべきです。また、リスク委員会が監視を割り当 てられたリスクについては、他の委員会との重複について 留意すべきでしょう(例えば、監査委員会とのコンプライア ンスリスクなど)。

以下は、企業の事業に伴うリスクの性質に応じ、取締役 会が留意すべき事項です。

  • 取締役会はリスク監視のための体制を検討しているか
  • 取締役会ならびに各委員会 ( 設置されているならリ スク委員会を含む)は、取締役がリスク監視のため、 十分かつ客観的な情報を入手できていることを確認 できているか

取締役会がリスク監視の体制を整えるに当たり、プロティ ビティは取締役会及び経営陣が企業のリスクを評価し、 管理する戦略策定を支援します。また、プロティビティは、 取締役会の体制にかかわらずリスク監視プロセスの鍵で ある、企業のリスク報告プロセスの改善を支援します。

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