Risk Oversight vol.23 「新たに顕在化するリスクを識別する」

リスクマネジメントを効果的に実施するには、新たに顕在化 するリスクを識別することが必要です。しかし、多くの例で は、リスク評価をしても「、既知の知」つまり既にわかっている リスクをヒートマップ上で上下左右するだけに終わり、結局、 経営者としては「元々わかっていることばかりではないか。 新しい発見はないのか」という疑問だけが残りがちです。

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主要な考慮事項

「新たに顕在化するリスク」とは、現時点では完全に評価 することができないものの、将来、企業の戦略の有効性を 覆しうる、新たに出現しつつあるリスクを言います。新た に顕在化するリスクを識別する1つの方法として、企業の 戦略の主要な前提条件が覆された、あるいは覆されつつ あるのではないかということに焦点をあてるのが有効です。 現実的に全てのビジネスにとって、その依ってたつ基盤は 絶えず変化しています。この場合、経営者は、自社の戦略 の主要な前提条件を念頭に置き、これらの前提条件を覆 しうる外部環境の変化を監視するための指標を識別する ことが必要です。

また、新たに顕在化するリスクを識別する別の方法として、 グローバルな変化に着目する手法があります。2011 年初 め、世界経済会議(World Economic Forum : WEF)は、 最新のグローバルリスク一覧を発表しました [1]。この 発表では、種々のグローバルリスクを、経済リスク、環境リス ク、社会的リスク、政治的リスク、テクノロジリスクの5 つに分 類しています。この分類を参考にすることで、企業に影響する外部指標を識別することが容易になるでしょう。なお、 WEFはこれら多様なリスクを、経済格差及び政情不安と いう概念を軸に整理していますが、この2 つの軸に基づい て、さらに以下の3つの主要なリスク集団に分類しています。

  • マクロ経済の不均衡─新興国における富の蓄積と先進国における負債の増加の間の緊張関係から生 じるリスクです。例えば、財政危機、資産価格の暴 落、為替レートの不安定等が含まれ、これらのリスクは 国家間の不安定な支払能力や貿易格差によりさらに 増大されます。
  • 経済的不正・犯罪─現在のネットワーク化した世界における、政情不安や経済格差から生じるリスクです。 贈賄、密貿易、組織犯罪や国家転覆のリスクがありま す。例えば、密貿易は国家の力を弱め、経済発展を 妨げ、政治的な不安定をもたらします。
  • 水・食料・エネルギー─人口の増加や経済発展は国際的な資源供給に不安定な影響をもたらします。 今後20年間で主要資源の需要は30から50パーセ ント増加すると見込まれ、その結果、資源の不足は商 品価格の暴騰をもたらし、結果、社会的・政治的不安 定を増し、最悪国家間の紛争に結びつきかねません。

これらのリスクの分類は、現時点は考えが及んでいないも のの、企業の未来に影響する様々な要因について考える 契機となるでしょう。重要なのは、企業が、例えば、再度の 金融危機、中国経済の停滞、新規テクノロジの脅威や主 要な国地域におけるインフラの壊滅等、これらの要因によって引き起こされる影響度や持続性の高いリスクに対応す る準備ができているか、ということです。

新たに顕在化するリスクは、外部環境によって生じるだけ ではなく、企業の経営判断によっても生じます。例えば、新 規工場を建設し、新規市場において雇用を増加させる判 断は、通常、企業のリスクプロファイルを変化させます。経 営者はそのような判断の、既に現実化した、あるいは将来 予想される影響(例えば、政治的・財政的リスクの影響、文 化的な問題、法制度の相違や自然災害等)について慎重 に考慮しなければなりません。

新たに顕在化するリスクを識別するにはリスクシナリオの 設定が有用ですが、その場合、最悪の事態を想定する必 要があります。グローバリゼーションの進展によりサプライ チェーンが相互に依存し、企業間取引や個人間のつなが りが増すにつれ、競争、テクノロジ、効率的な生産体制そ の他の要因は、ビジネスの速度だけでなく、危機の度合い をも増大させました。先の日本におけるサプライチェーン の分断は1つの教訓をもたらしました。というのは、異常気 象、震災、火山噴火、洪水等の自然災害について、判断モ デルの背景となっている実証的なデータを集めるのに用い られる期間を恣意的に短縮することは、誤った判断をもた らしかねません。例えば、統計上は、東日本大震災で東 北地方沿岸を襲った津波は1000 年の1 度の事象でした。

米国を襲ったハリケーンカトリーナやオーストラリアの水害も また最悪の自然災害の一例ですが、これらの自然災害に ついて考えるには、長い時間軸上で発生しうる事象をも十 分に考慮しなければなりません。その上で、サプライヤーを 単一に絞っている状況で最悪のシナリオが発生した場合、 十分に練った対応計画がなければその顧客に対して相 応の影響をもたらすことを想定しなければなりません。 経営者が考慮すべきもうひとつのポイントとしては、企業のビジネスそのものを変えてしまうリスクです。WEFは「、重大、 予測できない、または過小評価」しているリスクについて注 意喚起しています。例えばサイバーセキュリティ、人口構 造の変化、資源不足、グローバライゼーションの影響、インフ ラの脆弱性や都市の財政危機が挙げられます。これらの リスクのうち全てではないにせよ、いくつかは企業に影響す る可能性があります。

[1] Global Risks 2011, Sixth Edition: An Initiative of the Risk Response Network, World Economic Forum, January 2011 より

以下は、企業の事業に内在するリスクに応じ、取締役会が 考慮すべき事項です。

  • 経営者が真剣に不安に感じ、かつその不安が現実 味を帯びている事項はないか。個々のリスク間の関係 を考慮してより大きなリスクテーマを識別しているか。
  • 取締役会は自社のリスクプロファイルの変化を適時に 識別しているか。新たに顕在化するリスクを識別する プロセスが存在するか。結果、適切な対応計画を実 施しているか。
  • 取締役会は、経営者がビジネス環境の変化を定期的 にモニタリングし、企業戦略の前提となる条件やリスク を識別している

プロティビティは、取締役や経営者が企業をとりまくリスク 及びリスクを管理する能力の評価を支援します。プロティ ビティでは、新たに顕在化するリスクを含め、企業のレピュ テーション、ブランドイメージ、企業価値を毀損しかねない リスクを識別・優先付けする支援を実施しています。

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