Risk Oversight vol.22 (日) 「先行企業」を目指す」

「先行企業」(early  mover)とは、特定の機会やリスクに 気付き、他社に先駆けて、あるいは同様の機会を捉えた他 社と共同で戦略を立案遂行する企業を言います。先行企 業には時間的アドバンテージがある分、市場の変化によっ てその戦略の前提となる主要な条件が覆ってしまう前によ り多くの意思決定の選択肢を持つことが可能となります。 複雑化し、変化の早い今日のビジネス環境において、「先 行企業」になれないことは時に致命的ですらありえます。

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主要な考慮事項

プロティビティの「先行企業」の概念は、マーケットシェア における「先発企業」よりも広い概念です。「先行企業」 の概念は、企業の主要戦略の前提に影響を与える市場 の変化を認識し、それに対応するか否かについて判断を 下すことに関するものであり、必ずしも「最初に」行動する 企業を指すわけではありません。先行企業か否かは、企 業が市場変化の速度に応じて早期に行動しているかを 表す概念です。よって「先行企業」には二番手企業もは いるかもしれません。何番手かが問題なのではなく、早 いか遅いかの問題です。それはマーケットが決めること であり、二番手でも十分に早い場合と遅い場合がありえ ます。つまり先行企業となれるか否かは、企業の優位性 を維持できるかどうかの問題なのです。

先行企業の特徴は3つのR、つまり認識(RECOGNIZE)・ 対応(REACT)・省察(REFLECT)で表されます。

認識(RECOGNIZE)

先行企業は、他社に先駆けてリスクを認識します。

  1. 戦略の主要な前提を理解する
  2. 企業の戦略前提を覆しうる事象について、効果的 なシナリオ分析を実施する
  3. 競合他社の情報収集プロセス・能力と、特に重要 なシナリオの発生・進行を示す指標を連携させる
  4. 上記を迅速に総合判断し、得られた洞察につい て報告する

対応(REACT)

先行企業は、認識した主要な機会やリスクに対し他社に 先駆けて対応します。

  1. 市場の変化が主要な戦略前提に及ぼす影響を常 に検討協議する企業文化を形成する。
  2. 戦略前提の変化に関する情報を元に、企業戦略・ ビジネスプランを改訂していく上で不可欠となる 洞察力や創造力を活性化させる。
  3. 企業の弾力性(市場変化に対して能動的に対応し うる能力)を高める。

省察(REFLECT)

先行企業は、認識・対応に関して過去の失敗経験から学 びます。

  1. 失敗を認め、失敗から学ぶ。
  2. 過去の失敗を業務改善に活かすなど、継続的改 善を実施する。

認識・対応は容易ではないことから、現実には「先行企 業」の数は多くありません。例えば、ある業界におけるビ ジネス環境の変化に対し、全ての企業が即応して行動 することは稀です。先行企業は適時適切な情報をもち、 適切な手法をもって情報を分析した上で、意思決定を行 います。最終的に行動するか否かは別としても、先行企 業は、他社に先駆けて市場の変化を認識します。例え ば、iPodの発売において、アップル社は先行企業とはいえ ませんでした。しかし、iPadやiPhoneの発売においては、 同社は求められる新機能を十分に検討した上で新製品 を発表した先行企業でした。

「先行企業」というのは、企業の戦略上の課題に関わるも のといえます。例えば、航空会社が揃って航空運賃を値 上げするのはプロセス上の課題であって、戦略上の課題 ではありません。他方、金融危機につながる住宅価格の 低下は、戦略に影響する問題でした。当時、住宅価格 の低下の問題についてどの時点で認識・対応できたかに より、今日の各社の評判や市場での位置づけに大きな格 差が生じています。
 
重大な戦略的事項において「先行企業」の地位を獲得 し続けることは、競争優位及び企業価値の向上につなが ります。さらには、金融危機のような市場の大きな変化に も企業が耐えられる可能性を増大させるのです。

以下は企業の業務上の性質に応じて、取締役会が考慮 すべき事項です。

  • 取締役会は企業戦略の主要な前提条件を十分理 解しているか
  • 競合他社の情報収集活動において、最重要な戦略の 前提を覆すような指標を対象としているか、かつそれは 早期に警告を発することができるようになっているか。
  • 取締役会は、経営陣が警告の兆候に留意し、企業 の取りうる戦略について適時に考察できていることを 確認できているか。
  • 過去の経験からして、「先行企業」の特性を十分に 備えているか。

プロティビティは企業のレピュテーションやブランドイメージ を毀損するリスクの識別を支援します。具体的には、リス クの識別・管理を通じて企業戦略をより強固にし、リスクと 経営活動を統合することを支援致します。

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