Risk Oversight vol.19 (日) 「サプライチェーン分断リスクを管理する」

東日本大震災は、鉄鋼産業、自動車産業、家電産業、製 薬業等、多くの企業のサプライチェーンに大きな影響を及 ぼしました。操業が停滞または中断した企業は多く、サ プライチェーン分断リスクをいかに管理するかが、注目を 集めています。

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主要な考慮点

サプライ戦略とはそもそも複雑な問題ではあります。調 達先の選択肢が複数あったとしても、単一調達戦略をと るべき場合も多いでしょう。在庫を抑え、調達先を1 つに 絞り、JIT(ジャストインタイム)製造・供給の手法を採用す るという意思決定は、品質・時間・コストの要請が事業継 続の要請を上回るという矛盾を含んでいます。しかし、 今回の震災によるサプライチェーンの分断は、このような 矛盾を無視してよいものではないという注意を喚起しまし た。在庫を圧縮し、システム間の連携をタイトにするよう な効率的な製造に重点をおけば置くほど、分断リスクは 高まります。

現代の相互依存社会においては、バリューチェーンを全 社的な観点から検討することこそがオペレーションリスク を理解・管理する上で重要です。この観点からは、複数 の階層にわたる調達先との関係及び自社のオペレーショ ンを結びつける物流機能について考慮することも必要で す。調達先との関係は、気付きにくい点ではあるものの、 企業内部のプロセス、人材、システムと同様、ビジネスモデ ルを実現する上で表裏一体の要素です。オペレーションリスクを評価する際は、常にサプライチェーンの分断リス クを考慮しなければなりません。

ビジネスの速度が速まるにつれ、ビジネスを停滞させるリ スクは重大な問題となります。過去 10 年間の教訓から、 甚大災害、テロその他の壊滅的事象は、ある地域を文字 通り「壊滅」させ得ます。サプライチェーン分断リスクを 評価する際は、予期せぬ災害等によりサプライチェーン の主要な要素が失われた場合、自社のビジネスモデルに どのような影響が生じるかについて考えるのがよいでしょ う。以下はその例です。

  • 自社が主要な原材料や部品について依存している 調達先はどこか。何らかの理由でその調達先を失 うとどうなるか。その後どのくらいの期間、操業を継 続できるか。他にも代替的な調達先はあるのか。
  • もし、原材料が一時的に不足したり、原材料・部品の 供給に重大な失陥が発生したり、物流に重大な障害 が生じたり、その結果、価格が高騰した場合、どうす るか。
  • 自社の主要調達先はリスク評価をしているか。災害 に対応する計画を有しているか。
  • いかにしてそれを知りうるか。調達先との間に正式 な取り決めがなされているか。

サプライチェーン分断の影響を評価するに当たっては、 以下を考慮すべきです。

  • 分断の速度:最初の影響を受けるまではどれだけの 時間があるか。
  • 分断の期間:供給の分断が続いた場合、どれだけ長 く影響が及ぶか。
  • 対応準備度:主要調達先の喪失に対応して、どの程 度で回復できるか。

これらの要素についても検討がされると、リスク管理はも はや危機管理と交錯するようになります。

事業継続計画(BCP)を策定するに当たり、戦略的調達 先を失うことに起因する全シナリオを考慮すべきです。 具体的には、供給不足・財務上の影響双方についてサプ ライチェーンへの直接の影響(特定の調達先、製品、市 場)を評価し、重大な供給・物流の分断から回復するまで に要する時間を考慮し、影響を最小化するために事前 に定め、検証した対応計画を導入します。回復プロセス を促進する戦略には、他の調達先を見つけたり、即座に 代わって製造・物流を担える業者と契約することなどが考 えられます。コンテンジエンシープランは不意の事態に備 えると同時に、需要・供給の不確実性に備え、カスタマー サービスレベルを維持するために、在庫に余裕をもたせる メリットも示したほうがよいと考えられます。

企業が単一の調達先に依存している場合は、他の調達 先にも対応できるように製品の内容を変更したり、代替品 を開発すべく他の主要調達先と連携することが考えられ ます。調達先を変更することは品質問題に関わるリスク が生じかねませんので、注意深く行われなければなりません。とくに調達先に一定の資格が求められる規制が厳 しい産業においては、さらに難しいかもしれません。何年 もかけて築いた調達先との関係は、一夜にして他の業者 に代え、しかも同じレベルを維持することは容易なことで はありません。

以下は、企業に内在するリスクに応じ、取締役会が考慮 すべき事項です。

  • 経営者は、分断リスクを評価するに当たり、末端に至 るまでのサプライチェーン( 第二次、第三次調達先か ら客先への供給を含む)を視野にいれているか。主 要調達先について、経営者は供給分断につながりう る全ての関連シナリオを検討しているか。
  • オペレーションリスクを評価するに当たり、経営者はサ プライチェーン分断に対応するにあたっての企業の 回復力を評価しているか。最重要または単一の調 達先を失った場合に備えての対応計画はあるか。

プロティビティには、企業がサプライチェーンリスクを理解 し、現状のモニタリング・対応能力を評価し、持続性ある 戦略・プロセス・レポートを立案・導入し、効率的に業績、信 頼性及びコントロールを改善するに資する、豊富な支援 実績があります。

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