Risk Oversight vol.17 (日) 「適切なCROを選任する」 「取締役のリスク監視Issue6」では、CRO(Chief Risk Officer: 最高リスクオフィサー)を設置することの是非に ついて解説しました。CRO(または相当する上級リスク 役員)を選任するか否かについての決定は、企業の事業 分野、事業モデル、事業構造、文化、リスク及び各事業活 動の細分化の度合い等の要因に左右されると結論付け ました。経営者がCROを設置すると決定した場合、問 題は、CROを選任するに当たって考慮すべき資質とは何 か、ということです。 日本語版PDF 英語版PDF Topics 取締役事項 主要な考慮点 CROの適性を判断する上で考慮すべき点は多数ありま す。 経営者・取締役会によって求められる役割及び期待 CROの役割や位置づけ、CROに対する期待は、候補者を 決定する上で大きな意味を持ちます。これはCROが、企 業のリスク選好を決定・周知させたり、リスクを管理・監視す るための方針、プロセス、人材、報告、システム等適切なイ ンフラ整備を実施したり、戦略設定・事業計画とリスク管理 を統合したり、経営者・取締役への適切なリスク報告を実 施するといった、戦略的な役割も担うかにもよります。またC ROが、コンプライアンス管理、特定リスクの責任、保険の設 定、不正防止、資産保護、環境・健康・安全問題等、より戦 術的な役割を担うのかにもよるでしょう。多くの場合、戦略 的な役割がより好ましいと考えられますが、実務上は両方のアプローチが取られています。CROの地位の性質や役 割は、必要とされる人材と密接に関係します。 必要とされる経験 企業が事業部門やその他部門のリーダーと同格の人材 をCROとして求めているのなら、15 年以上の経験を有す る幹部要員を求めるべきでしょう。リスク管理や財務にお ける経験は望ましいでしょうが、業界における経験や、同 業他社において実際に問題に対処した経験は不可欠 です。業界経験とは、顧客に対する価値の創造や、規 制環境、関連する業界標準や、ベストプラクティスを含み ます。役員と接したり、取締役会に報告した経験や、当 該企業における最重要リスクにおける専門性(商社や投 資銀行においては市場リスク、銀行におけるクレジットリス ク、電力会社における商品相場リスクなど)は望ましい資 質といえるでしょう。 分析思考能力 CROは、戦略的に思考し事業部門と協働して事業計画 や商取引におけるリスクを特定・細分化し、リスクを軽減 する方法を提示し、事業計画や商取引を最善化すること が求められます。他の重要な業務としては、大量のデー タを効率的に分析し、現行の状況下において、上級経営 者や取締役会が行うリスク分析を支援し、主要なポイント を提示することがあります。 コミュニケーション能力 CROが監督機関を含め、他者とコミュニケーションをとる上 で、並外れた文書ならびに口頭によるコミュニケーションな らびに交渉スキルは重要です。CROには、自身の上位者 も含め、他者をとりまとめ、動機付ける能力が必要です。 ビジネスに対する鋭い洞察力 CROは、信頼できるアドバイザーであるとともに、リスクとリ ターンを識別できる統括者でなければなりません。課題 解決能力と結びついた健全な経営的・財務的判断が不 可欠です。業界全般におけるリスクモデルや定量分析 の活用が増しているため、分析能力の必要性がさらに高 まっています。CROは各事業部門からのリスク報告を集 積・要約・分析し、最終決断者が理解しやすい言葉に翻 訳しなければなりません。CROの目的は、企業価値を維 持するとともに増加させるため、事業計画や取引を改善 することにあるのです。 プロセス志向 CROは、通常、企業の目的や業績目標の達成に影響する 主要な事業リスクを識別・優先付け・監視・管理・報告する ための広範かつ持続的プロセスを構築・維持することを支 援する立場にあります。そのためには、プロセスやポリシー が企業の中核的経営管理とどのように関連しているかに ついてしっかりとした理解が必要です。企業はプロセス・ポ リシーの経験に長じた候補者よりテクニックに長じた候補 者を好むため、この能力は見過ごされがちです。 プレッシャーの下での冷静さ CROは常に客観的に、問題をあるがままに把握し、必要 に応じて、大勢のメンバーに対して反対意見を述べなければなりません。CROは、プレッシャーの下でも正確かつ はっきりと意見を言わなければなりません。CROは、仮に 間違っているとしても、信念を貫く勇気を持つべきで、組 織の序列や地位に押しつぶされてはなりません。CRO は、積極的なコミュニケーション及び、思いを共有すること を通じて影響力が発揮できます。重要な適性の一つに、 危機的状況下で部門やチームを管理した経験があるこ とといえます。 以上に加え、さらに重要なのは、「フィット」するか、つまり、 当該企業に適合する人材であるか、ということでしょう。 取締役の考慮事項 以下は、企業の事業に内在するリスクの性質に照らして、 取締役会がCRO(または相当する役員)を選任すること とした場合の考慮事項です。 締役会は事業遂行上、CRO選任に納得しているか。 CROに期待される役割は明確か(報告ラインや地 位や長期的企業価値の保護と連動した報酬が明確 になっているか等) 求められる経験・役割・人的属性が明確に規定され ているか 取締役会は、CROが取締役会のリスク監視をどのよ うに改善するかについて考慮したか。CROの責任 が他のリスク管理部署の責任といかに区別されるか を理解しているか。 プロティビティの支援 プロティビティは、企業や公的機関が行う主要リスクの識 別や管理を支援します。プロティビティは、経験に基づき、 企業がCROの役割を設定したり、組織的位置付けを決 定することを支援します。 全ての関連情報は こちらへ