Risk Oversight vol.16 (日) 「リスク監視の焦点とすべき5つのカテゴリ」

取締役会がリスク監視を実施するに当たって、重要な範 囲を全てカバーするためには、リスクをどのように分類・定 義すべきかが課題となります。取締役会は事業の特質 に合わせて、適切なリスクの分類・定義をしなければなり ませんが、本号では、取締役が考慮すべき5 つのカテゴリ について解説します。

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主要な考慮点

リスクのカテゴリについては、全米取締役協会 National Association of Corporate Directors [1]が提唱する 広範囲のカテゴリが参考となります。この分類は、事業 の特質や戦略の違いに関わらず、あらゆる企業に適用で きるでしょう。

取締役会のリスク監視の対象領域 [2]

  • ガバナンスリスク:取締役の役割や構成、CEO及 び取締役の選任その他ガバナンスに関連するリスク
  • 主要な事業リスク:企業の戦略、ビジネスモデル、健全性を脅かす上位5~ 10 位のリスク
  • 取締役会承認リスク:主要な戦略判断、買収・分 割、主要投資、新事業への参入等、重要な経営判 断に関する取締役会判断に関連するリスク
  • 事業運営リスク:継続的な日常業務遂行に関連す るリスク
  • 新規リスク:上記 1 ~4の範囲外のリスク

ガバナンスリスク

取締役会は定期的にCEOの選任及び報酬、取締役会 の議長ならびに構成メンバー、取締役会の構造、その他 の企業の成功に不可欠なガバナンスに関連する問題を 検討しなければなりません。これらを判断するために、取 締役は、選択肢について、それぞれリスクとそのリターンを 測らなければなりません。取締役会は、他社の採用して いる手法と比較して自社のプロセスをベンチマークできま すが、多くの場合、取締役会全体としての経営判断、事 業に対する知識、リサーチ会社・報酬コンサルタントや弁 護士等社外アドバイザーからの情報も斟酌することが重 要です。

主要な事業リスク

企業の戦略及び事業モデルを脅かすリスクについては、 取締役のリスク監視の対象とすべきです。金融機関に おけるクレジットリスクや製造業におけるサプライチェーン リスク等リスクの重要性の高いものについては、取締役 会全体としての関与を必要としますし、かつ、これらのリス クを識別する継続的プロセスが必要です。これらのリス クへの対応は経営者の責任ですが、取締役会も、これら のリスクを理解するための情報を検討すべきです。例え ば、取締役会は、主要戦略達成に関するリスクについて、 他の事業リスクと比較しての影響及び可能性や、リスクを 管理する担当役員からの情報に基づくリスク低減への取 り組み状況について、経営者に対し報告を求めることが考えられます。他にも、技術の陳腐化の影響、時の経過 に応じたリスク評価結果の変化、企業戦略の前提条件 における変化の影響や、他の事業リスクとの関係等につ いての情報も必要です。

取締役会承認リスク

取締役は、経営者の提案する戦略的取り組みやその他 の方針が企業にとって適切なものかについて、十分かつ 迅速に検討しなければなりません。例えば、買収、分割、 主要投資や新規製造ラインの提案について、取締役会 は、承認する前に、関連するリスク及びリターンについて さらに質問を投げかけ、場合によってはさらなる分析を要 求することも欠かせません。

事業運営リスク

すべての事業は日常業務の中は、多くのオペレーション・ 財務・コンプライアンスリスクを有しています。取締役会 は、すべてのリスクを個別に検討する時間がありませんか ら、注意が必要な、脅威となりうる事業リスクカテゴリを識 別し、取締役会レベルで監視するか、または適切な委員 会に監視責任を委任するか決定しなければなりません。 例えば、財務報告リスクは通常監査委員会が監視しま す。他の事業リスクとして、IT、知財、顧客満足、製品の 陳腐化、環境・安全問題等に関連するオペレーショナル リスク、財務諸表上の債務過剰のような財務リスク、複雑 な新しい法律に対するコンプライアンス違反等のコンプラ イアンスリスク、さらには企業のブランドイメージを損なうレ ピュテーションリスクが考えられます。これらすべてのリス クへの対応については、経営者の責任ですが、取締役 会もまた、主要な事業リスクと認められれば、前述のとお り、全体として最大限の関与を要します。

新規リスク

上記のリスクの範囲外にある外部環境リスクに対応する のは経営者の責任ですが、取締役も理解はする必要が あります。人口推移、気候変化、天災、新規のセキュリ ティ上の脅威等が一例です。取締役も、環境変化に対 応して企業のリスク評価をアップデートする効果的なプロ セスが存在するかを確認しなければなりません。

上記リスクカテゴリは、取締役会がリスク監視プロセスの 範囲が十分であるかを考える一助となるでしょう。
取締役の考慮事項以下は、企業の性質に応じ、取締役会が考慮すべき事 項です。

  • 取締役会が経営者に対するリスク監視の優先付け を行うために、企業の主要な事業リスクを識別するプ ロセスがあるか
  • 取締役会は、事前に(事後承認ではなく)主要な戦 略や方針を承認しているか
  • 経営者及び取締役会が先見的に対処できるよう、新 規リスクを識別・報告するプロセスがあるか

プロティビティの支援

プロティビティは長年の経験から予断なく、取締役が企業 の主要リスクやそれらの管理方法を理解できるように支 援します。

[1] Report to the NACD Blue Ribbon Commision – Risk Governance: Balancing Risk and Reward、全米取締役協会、2009 年 10月付録A、22-23頁。
[2]  上記9頁

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