Risk Oversight vol.13 (日) 「会社が財務破綻に陥った際の取締役の法的責任」

取締役個人の法的責任リスクは以前にも増して高まって おり、社外取締役も自分を守る予防措置を取る必要があ ります。SOX 法の施行や、過去 50 年で最大となった企 業の倒産件数を背景に、社外取締役に対する損害賠 償請求訴訟は増加しており、社外取締役は、株主、経営 者、債権者、さらには監督官庁にとって格好の標的になっ ています。社外取締役は、自分の判断が自分の社会的 信用に及ぼす影響には気をつけてはいるとしても、会社 のために責任を果たす一方で個人の法的責任を低減 するための行動を取っているかについても自問する必要 があります。

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主要な考慮点

社外取締役は、平素から、会社及び株主の利益を守る ため、適切な監視監督を行うとともに、客観的かつ独立し た判断を行う責任があります。しかし、会社が資金難に 陥った時は、さらに注意すべき問題が生じます。

  • 社外取締役は、原則として会社及び株主に対する 信認義務(fiduciary)を負っています。取 締 役は 意思決定を行う際には、善管注意義務(reasonable care)、忠実義務(loyalty)、誠実義務(good  faith)に 基づいて会社の業務・財務執行の監督を行わなけ ればなりません。社外取締役は、ときに自身の個人 的利益を犠牲にしてでも、会社の利益を優先して行 動しなければなりません。
  • 会社が債務超過に陥った時は、会社は債権者の利益に配慮しなければなりません。会社は債権者を平 等に扱い、会社財産を守り、不適切な価値の喪失を 防止する義務があります。
  • 会社が資金難に陥った時は、そのリスクプロファイル にも変化が見られます。社外取締役は、自社のリス クプロファイルを十分に理解した上、自身が行う、また は承認する判断が長期にわたって自社に及ぼす影 響を評価しなくてはなりません。
  • 債務超過時は、財務・オペレーションに対する内部統 制を監視し、企業の財務状況を理解した上で判断を 行うことが特に重要になります。取締役は、マイナス のキャッシュフロー、リファイナンスや新たな資金調達 など、潜在的な危険信号に注意を払わなければなり ません。
  • 企業が破産の申立てをする際、債権者がその債権 を回収しようとして取締役に対する請求を行うこと が多くあります。債権者は取締役会の行動を精査 し、請求の原因となるような故意・過失を探します。 そのような請求に対し、会社の設定した D&O保険(Directors & Officers Liability Insurance: 会 社役員賠償責任保険)が十分か考えなくてはなりま せん。また、会社が倒産する時は、債権者らによる 取締役や経営者の個人資産を目的とした請求が頻 発し、取締役の行動がより厳しく精査されます。仮 に取締役の判断に過ちの兆しさえあれば、それが原 因で訴訟となりかねません。なお、社外取締役に対する請求の例としては、過大報酬の返還や、企業資 産・情報の使用による個人資産の不当な増加などが あります。
  • 会社がM&Aを検討している際、取締役は、その案 が会社及び株主にとって利益となるか、善管注意義 務を果たさなければなりません。この場合、取締役 の行為・不作為に関する法的責任の基準はより厳格 になることがあります。取締役は会社の財務状況を 完全に理解し、M&A 案が及ぼしうる影響を理解し なければなりません。

会社が資金難に陥った際にも、社外取締役は、その経験 を活かし、会社の抱える問題に対して、斬新かつ偏りな い視点を提供できます。しかし、債務超過または債務超 過になりそうな場合には、取締役は関連する問題を念頭 に置いておかなければなりません。

自社のリスクの性質に照らし、取締役会は以下の事項を 検討するべきです。

  • 会社が資金難に陥っているという危険信号が発せ られていないか。取締役は問題のある報告や財務 修正を調査し、関係会社取引を精査し、企業買収・ 分割・再編成・資本増強案を分析しているか。 
  • 取締役会は意思決定のために、または意思決定の 判断基準とするために外部のフィナンシャルアドバイ ザーや弁護士等を雇う必要があるか
  • 社外取締役による公平な判断を妨げるような利益相 反がないか
  • 適切なD&O保険による取締役の保護を図っている か。当該保険は倒産時も対象とするか。会社の免 責条項は法律上認められる最大限の保護を図って いるか。
  • 資金難の際、社外取締役は会社のリスクプロファイ ルに関する全ての必要情報を有しているか。外部 の利害関係者の利益に反する事項については、経 営者と対立する意思があるか。

プロティビティは、取締役や経営者のリスクの評価・管理 を支援します。私たちは、企業のレピュテーションやブラ ンドイメージの毀損を防ぐため、リスクを識別し、優先づけ る支援をしています。私たちの目指すところは、戦略に 内在するリスクの識別・管理を向上させることで企業の 戦略を確実なものとし、かつ、リスクやリスク管理を企業の コアとなる経営活動と統合することです。

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