Risk Oversight vol.12 (日) 「黒い白鳥」(ブラックスワン)に備える

「黒い白鳥」すなわちブラックスワン事象とは、史実・科学・ 金融技術・テクノロジーの既存の常識を超え、予測が困 難・発生が稀でありながら発生した場合の影響の大きい 事象を言います[1]2001年9月11日の同時多発テロや リーマンショックはブラックスワン事象の例です。単純に 言うと、これらブラックスワン事象に共通するのは、従来の 常識にとらわれていては駄目だという教訓です。

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主要な考慮点

ブラックスワン事象は、企業の事業に多大な影響を及ぼし ます。しかし、未来は予知できないがゆえに、発生するか わからない事象に対して企業がどのように備えるのかが 問題となります。ひとつのアプローチとして、企業の事業 戦略の根幹をなす前提条件を検討することにより、ブラッ クスワン事象の及ぼす損害を推測する手法があります。

1. 自社戦略の前提条件を明確にする
企業の戦略が前提とする諸条件は、その戦略の及ぶ期 間について経営者の抱く「世界観」を反映します。戦略 の前提条件は、自社の能力、競合他社の能力・行動、顧 客の嗜好、テクノロジーのトレンド、資金の量、合理的価格 で供給を得られる原材料の量、操業の持続性、法規制 の傾向等、多岐に及びます。戦略の前提条件は、戦略 が及ぶ期間における当該戦略による事業遂行の諸条件 についての経営者の考えを反映していることから、経営 者にとってのホワイトスワン(白い白鳥)、つまり経営者が 戦略策定にあたり所与と考える事象を意味します*[2]
具体例:先の金融危機において苦境に陥った金融機関を振り返ると、低金利資金を活用し、低所得層に対して 多額の住宅資金を融資するというのがその典型戦略で した。この戦略の前提となっていた条件は、「住宅価額 は安定または上昇し続け、低金利資金は豊富に存在し、 経済成長は持続する」、というものでした。

​2. 反対思考を行う
反対思考とは、戦略の前提条件を否定してみることです。 戦略の前提条件が経営者にとってのホワイトスワンであるなら、その反対がブラックスワンの候補になります[3] 反対思考の結果、企業の戦略実行を妨げかねない事象 が示されます。
具体例:「住宅価額は安定または上昇し続ける」という前提に対して反対思考を行うと、「住宅市場が全主要市 場において急暴落し、融資ポートフォリオの全要素を直撃 するかもしれない」という結果が得られます。

​3. 全ての反対思考結果がブラックスワンを示すわけ ではない
実際に発生した場合に、自社に特に大きな影響を及ぼす 事象に絞って考えます。とくに、現在は情報が不足して いるために予測できないのであって、事象発生後になる と、「事前に予見できたはずだ」と経営者が考えるような 事象を念頭に置きます。
具体例:住宅価額の急下落は、サブプライム市場におい て大きな影響を及ぼすことは明らかです。

4. 統合する 影響の大きい反対思考から導き出される結果を
「自社の戦略の前提条件の有効性がすでに失われてい るとしたらどう対処するか」「いかにして戦略の前提条件 が有効か知ることができるか」を考えることにより、戦略の 前提となる条件と反対思考した結果を結びつけることが 重要です。ここから導かれるアクションプランとして、通 常、経営者及び取締役会が注意すべき環境の変化につ いて指標を設定してモニタリングすることが含まれます。
具体例:「金融機関は融資ポートフォリオの要素に関連する主要市場における住宅市場指標をモニタリングし、 時折特定資産を売却し、住宅価格を再評価してみる必 要がある」という結論が得られます。

ブラックスワン事象に備えるには、戦略の前提条件の有 効性が失われたと仮定してみた上で、そこから遡ってな ぜ有効性が失われたのか、その意味するところは何なの か、考えてみるのが効果的です。

企業は、既存のビジネスモデルや戦略に執着するあまり、 手遅れになるまで状況の変化に気がつかないことがあり ます。戦略の前提条件が有効であり続けるとは限りませ ん。唯一確かなことは、将来、前提条件を覆す何らかの 事象が発生するかもしれないことについては誰にもわか らない、ということだけです。その中で、「反対思考」プロ セスは、経営者が、従来の枠を超えた大局的なものの見 方を持ち、前提条件に対して建設的な疑いをなげかけ、

ひいては戦略をより強固にする新しいアイディアを生み出 すことを可能にします。

[1]    Nassim  Nicholas  Taleb著 The Black Swan(邦題:ブ ラックスワン─不確実性とリスクの本質)2010  年
[2],[3] Frederick Funston, Stephen Wagner共著Surviving and Thriving in Uncertainty: Creating the Risk Intelligent Enterprise 2010 年

自社のリスクの性質に照らし、取締役会は以下の事項を 検討するとよいでしょう。

  • 経営者と取締役会の間に、自社の戦略の前提条件 について、共通の理解があるか。
  • 戦略の前提条件を疑ってみるプロセスがあるか。主 要な前提条件の有効性に関連する要素を継続的に モニターしているか。

プロティビティは、取締役や経営者のリスクの評価・管理 を支援します。私たちは、企業のレピュテーションやブラ ンドイメージの毀損を防ぐため、リスクを識別し、優先づけ る支援をしています。私たちの目指すところは、戦略に 内在するリスクの識別・管理を向上させることで企業の 戦略を確実なものとし、かつ、リスクやリスク管理を企業の コアとなる経営活動と統合することです。

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