Risk Oversight vol.11 (日) 「取締役会のリスク監視が失敗する10のケース」

リーマンショックに伴う企業の倒産劇を顧みて、当時、取 締役にも企業の危機を防ぐ手だてがあったのではないか という自省の念が高まっています。その結果、現在、取 締役会によるリスクの監視が大きな注目を集めています。 とくに今後同じような危機を回避するためにも、金融機関 の取締役には大きな期待が寄せられています。

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主要な考慮点

本号では取締役会によるリスク監視が失敗する10 大要 因を説明します。

  1. 自社の主要なリスクを優先付け、管理、モニタリングするプロセスが欠如している。 リスクの監視に関連し、取締役は経営者に対して様々な 質問を投げかけますが、これらの質問は通常3つに分類 できます。つまり、
     
    • 自社の戦略に固有のリスクは何か、そのうち自社 が受容すると決定したリスクは何か
    • 自社には、受容すると決定したリスクを管理でき るだけの能力があるのか
    • そのように言える根拠は何か リスクを優先付け、管理、モニタリングに関する強固なプロ セスがあってこそ、最後の質問にも答えることができるの です。
  2. 自社の戦略の前提条件について取締役の理解が欠如しているか、理解していてもモニタリングが されていない。 取締役は、自社の戦略実現を左右する要因について理 解し、これらの要因に影響する事業環境・法制度の変化 をモニタリングするプロセスが確立されているか注視しな ければなりません。
  3. ​自社のリスク選好について経営陣と取締役会が連携できていない。 取締役と経営者は、自社がどのようなリスクを受容・回避 するかについて十分に協議し、共通の高い視点をもたな ければなりません。
  4. 新規のリスクが識別・管理されていない。 取締役は、経営者が自社内の知見・プロセス・情報を活用 し、戦略や事業モデルの妨げとなる新規のリスクを適時 に識別して管理しているか注視しなければなりません。
  5. 「未来」について考える時間が不足している。「想定できないこと」、つまり自社の戦略実行に際して起こ りうる極限的な状況を想定するプロセスがあるか、経営 者はそのような状況が現実化した場合に取るべき対応を 決めているのか、ひいてはそのような状況を考慮すること により、不確実な未来の事象を現実のものとしてとらえて いるかについて、取締役は注視しなければなりません。
  6. 全社的「リスト」マネジメントに陥っている。 自社のリスクをただリスト化するだけで、フォローアップも ギャップの分析解消も行われないのでは、リスク管理は無 意味です。リスク管理は、戦略設定・事業計画・業績管 理など、企業のコアとなる経営活動に役立てなければなり ません。
  7. ​リスクの報告が、意味づけのない断片的なデータ の羅列に過ぎない。リスク報告に関する取締役の不満の声をよく耳にします。 取締役会は、リスク管理ひいては自社の戦略の前提条件 の持続性に関する情報を必要としているのです。なお、 自社のテクノロジーシステムが断片的であるために適時 の情報提供ができていないケースもあります。経営者が 適時適切な情報によりリスク対応ができるよう、大規模で 最適なシステム再構築に取り組む場合には、リスクに関す る的確な専門性が確保されているか監視すべきです。
  8. 「トップの姿勢」および企業文化に欠陥がある。リーマンショックでは、経営者がリスク管理について適切 な姿勢を示さなかった例が多数ありました。リスク管理 によって発せられる警告を無視して短期的な利益のみを 追求していては、企業は早晩行き詰まります。企業価値 の創造と保全のバランスをとり、短期的・長期的目標を同 時に達成することは、言うは易しですが、行うには強固な リーダーシップと規律が必要です。取締役会は、そのよ うな強固なリーダーシップと規律が確立されているか、CE Oや経営者が決定的な瞬間にリスク管理の発する警告 に従えるのか、監視しなければなりません。
  9. ​必要なチーフリスクオフィサー(CRO)が存在しない。 自社の事業やリスクの性質からしてCROの設置を要する にもかかわらず設置がされていなかったり、設置されてい ても形だけで、必要な能力・権限を有していないことがあ ります。
  10. ​取締役会が、効果的なリスク監視の体制をとって いない。取締役会が、リスクの監視に十分な時間・リソースを投入 していないことがあります。経営者のリスク管理向上に ついて、取締役会が十分な注意を払っていないこともあり ます。また、そもそも取締役会が自社のリスクを十分にカ バーできていないこともあります。

自社のリスクの性質に照らし、取締役会は以下の事項を 検討するべきです。

  • 取締役会は何のためにリスク監視をするのか、その 目的を明確化し、その目的に照らしてリスク監視がな されているか。
  • 取締役会は、リスク監視を妨げるギャップを識別する 措置を講じているか。

プロティビティは、取締役や経営者のリスクの評価・管理 を支援します。私たちは、企業のレピュテーションやブラ ンドイメージの毀損を防ぐため、リスクを識別し、優先づけ る支援をしています。私たちの目指すところは、戦略に 内在するリスクの識別・管理を向上させることで企業の 戦略を確実なものとし、かつ、リスクやリスク管理を企業の コアとなる経営活動と統合することです。

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