解説:2019年財務報告に関する監査委員会等の議題について

財務報告について、今回、日本における2019年の財務報告に関する監査委員会等(監査委員会等には、監査役会、監査委員会、監査等委員会を含む)の議題について、考察します。

財務報告の問題は、監査委員会等にとって必須のコアミッションです。2019年に監査委員会等が検討すべき課題は、以下の3項目です。

1. 財務報告プロセスおよび新しい収益認識会計基準への対応状況を監督する

監査委員会等が行うべき業務の中心は、企業の財務状況、経営成績およびキャッシュ・フローを開示する経営者のアプローチの公正性を監視することです。企業が大きな転換期にある時、監査委員会等は以下の点に注意する必要があります。

●監査委員等は、他の取締役とともに、財務報告を監督する立場から行動し、コスト削減計画などの全社イニシアチブについては、それらの計画が意図せずに財務諸表の適切性を損なうようなことのないように、その実行状況を監視しなければなりません。
●監査委員等は、各開示項目については、その目的やそれらの正確性と過年度との一貫性を確保するための経営者による開示作成プロセスについて十分理解する必要があります。また、
●監査委員等は、新しい会計基準の適用に細心の注意を払う必要があります。

最後の点については、監査委員会等は新たな収益認識基準に細心の注意を払う必要があります。
収益認識については、日本基準においても2022年3月期から新たな収益認識会計基準の導入が決定しました。現行実務への影響分析とその対応など、経営者は計画的に新基準適用への準備を進める必要があります。監査委員会等は、経営者がこれらの重要分野に対して、問題解決と同時に、必要な場合にはタイムリーに必要なスキルを持った要員や専門家を手当てするなどの対応を行っているかを確認する必要があります。

2. 監査人が提起した監査上の主要な検討事項に注目する

昨年7月に、「監査上の主要な検討事項」(KAM:Key Audit Matters)の導入を含む監査基準の改訂が行われ、2021年3月期決算の会社から外部監査人の監査報告書に、監査上の主要な検討事項を記載することが求められるようになりました。(2020年3月期からの早期適用可能)監査報告書の「監査上の主要な検討事項」は、財務諸表監査の過程で監査委員会等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項です。2019年はその対応準備として、日々の協議事項のうち「監査上の主要な検討事項」に何が該当するのかという議論が外部監査人と行われることになります。この「監査上の主要な検討事項」は経営者および監査委員会が財務報告プロセスを改善するかどうかを評価する機会を提供します。

例えば、主要な事項について経営者と外部監査人との意見が一致しない場合や経営者が積極的な会計原則を適用している場合には、「監査上の主要な検討事項」は財務報告プロセス改善の機会となります。監査上の重要事項の開示が現実のものとなった今、事業等のリスクと財務報告リスクの関連付けを確認するとともに、財務報告プロセスの改善をKAMの適用前に実施することが監査委員会等と経営者にとって最も現実的な対応策となると思われます。

3. 今後のリスク情報開示を支えるリスク管理体制・プロセスに注目する

金融庁は2018年11月20日、「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に向けて、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案を公表しました。 有価証券報告書「第2 事業の状況」(事業等のリスクなど)にては、下記の財務情報及び記述情報の充実を求め、この部分は平成32年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用となります。

●経営方針・経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明を含めた記載を求める
●事業等のリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明を求める
●会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識の記載を求める

また、金融庁が2018年12月21日に公表した開示の考え方において、「事業等のリスクの開示においては、一般的なリスクの羅列ではなく、・・(省略)・・投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に記載することが求められる。その際、取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが期待される。」との原則案を示しています。監査委員会等と経営者にとって、今後企業に求められる、より一段踏み込んだリスク情報の開示を支えるようなリスク管理の仕組みを構築できているかを、確認・検討することが必要となるでしょう。

(特集記事:メールマガジン2019年2月号)

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