豊田通商株式会社様:DXによるコンプライアンス活動の変革事例

豊田通商株式会社様:DXによるコンプライアンス活動の変革事例

データ分析による不正兆候の検知と抑止~最新デジタルツールの活用~

豊田通商グループは、国内外に約1,000社のグループ会社を擁し、グローバルにビジネスを展開しています。これまでグループ会社の役職員約58,000人を対象に、行動倫理規範の制定やコンプライアンス教育・研修等を実施していましたが、不正の抑止効果が大きく、少人数で実施可能な新しい施策を検討いたしました。そこで、不正兆候の早期発見、不正抑止力の強化を目的に、コンプライアンス部門とIT部門が協力し、最新のデジタルツールを活用したデータ分析を導入しています。

【データ分析導入前】 教育・研修による不正抑止には限界も

Toyota Tsusho

 

豊田通商株式会社は1948年に設立され、トヨタグループの商社として完成車の輸出を中心に事業を展開してきました。2000年以降は、仲介業務に加えて、事業投資を通じて自動車以外の分野にも積極的に進出しています。現在は7つの営業本部を持ち、グローバルに事業領域を拡大しています。

ERM・危機管理・BCM推進部(以下、ERM部)は「安全とコンプライアンスが全ての仕事の入口」をスローガンに掲げ、グループ全体のリスク管理活動を推進し統括しています。

ERM部は性善説でも性悪説でもない“性弱説”に基づきコンプライアンス活動を行っているのが特徴です。はじめから意図的に不正を起こそうとする従業員はいません。しかし、人間は弱い生き物であり、小さな不正を犯してしまうことがあり得るのです。

それを防ぐために、良心や良識、人間のあるべき姿に立ち返るグローバル行動倫理規範の策定やコンプライアンス研修等を実施してきました。

 

Toyota Tsusho

 

(前列左より)ERM部 コンプライアンス統括室 森田徳教氏、CCO 永井康裕氏、ERM部  コンプライアンス統括室長 大塚洋行氏(後列左より)豊通シスコム グローバルICT事業本部 孕石孝平氏、青山真沙美氏、中内芳朗氏(2020年3月現在)

【データ分析の導入】 経費の不正使用、粉飾、循環架空取引をモニタリング

当社では、幸いにも新聞紙上を騒がせるような大きな不祥事は発生していません。しかし、「小さな不正」は少なからず発生していました。「割れ窓理論」から考えるにこれを見逃してはいけません。割れ窓理論とは、割られた窓を放置しておくと、他の窓も割られ、軽犯罪の温床になり、やがて重大犯罪につながるというものです。小さな不正は大きな不正の予兆であり、大きな不正は会社を滅ぼします。経営陣もこれを懸念して当部にコンプライアンス態勢の強化を要請しました。

そこで、小さな不正を網羅的に発見・抑止するには具体的にはどうしたらよいのかを、プロティビティに相談しました。

プロティビティからは、彼らの持つ豊富な不正リスクシナリオを利用し、最新のデジタルツールを活用してデータ分析の実施を提案されました。

対象領域は、横領(経費の不正使用、キックバックなど)、不適切報告(粉飾決算など)、不正取引(循環架空取引など)、経営者不正(巨額の横領など)です。

経費精算のデータ分析を実施したところ、予期していなかったものも見つかったためデータ分析の威力を実感しました。さらにデータ分析の活動を社内に周知したところ、社内から多くの賛同の声が集まったため不正抑止力の強化につながると確信しました。

【現在の取り組み】 他部門やグループ会社と協働し、チームパワーを発揮

当初は、ERM部、IT戦略部、豊通シスコムの各部門から下記のノウハウ等を持ち寄り、数名で始めた小さなプロジェクトでした。

  1. ERM部は不正に関する業務知見
  2. IT戦略部は基幹システムのデータ活用やノウハウ
  3. 豊通シスコムは最先端のAIツールの活用やBIツールの実装

それぞれ具体的には、

  1. 不正に関する業務知見とデータ分析を組み合わせることで、これまでヒトの眼では見切れなかった膨大なデータの中から、具体的な伝票明細のレベルで不正の兆候を発見することができるようになりました。
  2. 基幹システムのデータや知見・ノウハウを活用し、グローバルに展開しているグループ会社の膨大なデータを分析対象としました。従来はコンプライアンスの観点では活用できていなかったデータも有効に活用することができるようになりました。
  3. AIやBIツールの技術を用いて、経費・売買計上・財務諸表のデータを分析し、定量で客観的な評価ができる「視える化」ツールとその運用の仕組みを構築しています。グループ内に横展開にも着手しました。

分析した結果を各部門とも共有し、経営をはじめ社内から、データ分析の取り組みがコンプライアンスの強化に貢献しているとの評価を得ることができました。

デジタル化の流れの中で、先進的なデータ分析の取り組みに社内の賛同者が増え、現在は、営業部門、内部統制、監査等の他部門とも協働し、大きなチームパワーを発揮しています。

【今後に向けて】 さらなる高度化、チームワークそして分析ノウハウの吸収とグループ展開へ

今後は、現在の取り組みをさらに充実させていくだけでなく、次の3つの取り組みに注力していく予定です。

  1. プロセスマイニングの投入
  2. 非構造化データの活用
  3. BIツールの展開

1. プロセスマイニングという新しいITツールの活用(イベントログ、タイムスタンプ等のデータを分析)にも取り組み、内部監査、内部統制そして各営業部門、地域統括部門の活動に貢献していきたいと考えています。

プロセスマイニングの利用により、業務のプロセスに潜む様々な問題や課題を明らかにできると期待しています。特に、発見の難易度が非常に高いとされる循環架空取引の早期発見・抑止に注力していきたいと考えています。

不正兆候の抑止・早期発見だけでなく、内部監査の高度化、内部統制の効率化、業務の改善等も目指しており、その実現のためにチーム豊田通商としてメンバー一丸となって挑戦していきます。

Toyota Tsusho

 

 

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2. 数字のような構造化データだけでなく、テキストデータのような非構造化データも分析対象としていく予定です。例えば、最新のメール分析ツールを活用して、機密情報や個人情報の持ち出しを防ぐために、メールデータをモニタリングします。さらに、不適切会計等の重大な不正を未然に防止するために、平時のメールモニタリングも推進したいと考えています。  

3. データ分析結果を、よりわかりやすく、経営を含むユーザーの意思決定に活用してもらうために、豊通シスコムとも協働し、BIツールによるデータの視える化(ダッシュボード)およびAIを利用したツールの開発・運用も充実させていきます。
これまでの成果等を考えると、プロティビティの適切な助言、優れた人材、豊富なシナリオ、デジタルに対する深い知見が欠かせなかったことは言うまでもありません。

 

また、2年足らずの短期間で、異常や不正の兆候を具体的に発見し、かつ先進のデジタルツールの導入という飛躍的な発展のご支援をいただけたことは、心より感謝しています。

今後もデジタル化の流れと複雑・高度化する不正に対応し、データ分析と最新のデジタル技術を駆使した活動を通じてコンプライアンス業務を強化・発展させていきます。

ご担当者の役職名は、インタビューを実施した2020年3月時点のものです。

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