全日空商事株式会社様:DXによる内部監査の変革事例 データ分析の活用により、監査の“あるべき姿”は「不備の指摘」から「リスクの可視化、予知」と「社員一人ひとりが活躍できる場の保全」へ大きく変化 多岐にわたる業種業態を展開する商社にとって、内部監査に必要なリスク情報を網羅的に可視化することは、データ監査の導入なくして語ることのできない課題です。データ分析を活用し、監査業務の効率化を図り、不備・逸脱の抑止効果を向上させた全日空商事株式会社では、経営に資する監査の高度化に向けて、データ分析を活用した新たな監査視点の創造に積極的に取り組んでいます。 (左より)内部監査室マネージャー 喜安 英伸 氏、内部監査室 室長 川西 茂 氏 【データ監査導入前】 いかにデータを活用してリスクを可視化するか 全日空商事はANAグループの多角化事業を担う商社グループとして、今年(2020年)、創業50周年を迎えます。航空関連事業の会社と思われている方も多いのですが、それ以外にも、半導体を扱う電子事業やバナナの輸入販売を手掛ける食品事業などから、空港店舗事業(ANA FESTA、ANA DUTY FREE SHOP)、ECビジネス(ANAショッピングA-style)事業と、BtoB、BtoCに至る幅広い業種業態に取り組んでいます。 また、国内グループ会社に加え、米国、欧州、アジアの海外にも拠点を有しており、これらの事業組織、グループ会社、拠点を合わせて多くの組織への監査が、我々、内部監査室のミッションです。室長を筆頭に管理職5名、非管理職1名の計6名の構成となっています。 情報化が進展し、さまざまな証跡がデータとして蓄積される中で、これをどのようにして活用していくかということが内部監査において課題となっていました。当社の業種業態は非常に多岐にわたるため、それを一つひとつ詳細に見ていこうとすると、それぞれについて専門性が必要となることから、かなりのスキルと時間を要していました。そこで限られたリソースの中で監査業務を効率化していくために、データを網羅的に分析し、効率的に多くのリスク情報を整理・把握して監査対応できるような環境構築が急務と考え、データ監査の導入を決定しました。 【データ監査導入フェーズ1】 会計データの収集・分析環境を構築 まず着手したのは、会計データを活用したデータ収集・分析環境の構築です。旅費や交際費を始めとした立替経費の利用傾向、与信限度額修正、期首期末の売上調整など、従来は個別に分析していた項目をグループ会社も含めて横断的に分析することが可能になり、各社の傾向把握、現場業務の透明化、時間短縮による監査の効率化を実現することができました。また、データの可視化によって、それまで見えなかった業務の流れや特徴、リスクの兆候をいち早く把握することも可能になりました。 コンピュータを活用したデータ監査のメリットは全量監査にあると我々は考えています。商社として多岐にわたる業種業態を手がけている中でも、監査で会計データを網羅的にチェックしていることを周知することにより、全ての従業員が「適切な処理意識」をもつようになり、逸脱の抑止効果につながりました。 これらの成果を受けて、我々の内部監査に対する考え方も変化していきました。従来はコントロールの不備やルールからの逸脱を発見・指摘することに重点を置いていたのですが、いかにその予兆を捕捉するかということが大切か、と考えるようになったのです。逸脱や重大な過失はひとたび起こると、本人だけでなく上司や部下にまで影響が及び、組織全体でのモチベーションや生産性が低下します。そのような事態に至る前の予兆段階でリスクを把握し、具体的な対応策を内部監査が助言していくことが必要だと考えています。 また、そうした議論を重ねる中で、我々内部監査室の思いも、監査によって社員一人ひとりが安心して業務に対応でき、その活躍できる場を高いレベルで保全することこそが、健全で活力のある組織風土の維持につながる、という前向きなものへと変化していきました。 【データ監査導入フェーズ2】 異なるデータを組み合わせて複眼的なリスク分析に取り組む 2018年下期からは、複数のシステムのデータを組み合わせて新たな視点での分析に取り組みました。具体的には、フェーズ1の会計データに加えて、勤怠や経費申請、承認システムなどのデータも収集し、それらを組み合わせて新たな傾向を把握することによって、現場で起きているリスクや効果をより複眼的に分析できるようになりました。 複数種類のデータを組み合わせると、たとえば、売上や利益の大きな変化やそれら移動年計での推移、未承認残業や休日出勤の有無、また、旅費・交通費や接待交際費など経費使用の効率性など、収益面や労務面、経費面を関連付けた分析が可能になります。そうすることで、単に残業や経費が多い少ないといった議論ではなく、必要な残業、必要な経費利用だったのか、など妥当性についても有機的に議論ができるようになりました。またリスク面では、過重労働への偏重や過剰な経費利用など予兆を把握することで早期助言につなげることも可能となりました。 一方で、過剰な監査が収益向上を阻害してはなりません。いかに健全なリスクチャレンジができるか、また業務効率をいかに高めるかといった視点も含め、組織別の労働生産性についても考察を高めています。これらはまだ道半ばといったところですが、それらに及ぼす影響因子などを定量的、定性的に推察し、引き続き生産性向上に資する相関分析に取り組んでいく方針です。 データ監査の導入・定着化に当たっては、プロティビティからはリスク分析の着眼点(リスクシナリオ・リスク兆候)、分析の手法、分析結果の活用方法など多岐にわたって豊富な知見をご提供いただきました。また、我々が独自に検討していた観点を分析ツールに実装し実現するためのプログラム構築にも親身になってご協力いただきました。我々も手探りの中でやっているところがあり、手戻りや見直しなども度々ありましたが、柔軟にご対応いただいたことに大いに感謝しています。今後も経営に資するインサイトを提供する監査の実現に向けて、分析レベルの底上げとなるようなリスクシナリオ・リスク兆候の提供や、ツールの活用方法のアドバイス、経営層を始めとしたステークホルダーに対し監査の成果と価値を伝達する可視化やレポーティングの方法など引き続きのご支援を期待しています。 【今後に向けて】 経営の高度化にも対応した支援を実現したい 今後、実現したいことは、経営高度化への対応支援です。SDGs対応やAI活用、M&Aなど経営の高度化に伴い、リスク視点も多様化、高度化してまいります。このような新たな経営領域に対して、新たな知見と経験データで先回りしたリスク分析・把握を行ない、その防止に対して有効な助言や提言を実現したいと考えています。 また、コミュニケーションツールとしてのデータ分析活用も目指しています。理想は、データ分析を各部門が活用して、自分たちのリスクを自分たちで管理する、という状態です。しかし、一度にこれを実現することは難しく、共感してくれた部門から順次取り組んでいきたいと考えています。そのためにも、多くのステークホルダーとコミュニケーションを重ね、データ監査の効果をあらためて周知するとともに、データ分析の活用手法についてもさらにブラッシュアップを重ねてまいります。 (後列向かって左より) 牛込 稔 氏、喜安 英伸 氏、東中 悠美 氏(前列向かって左より) 高橋 伸二 氏、川西 茂 室長、浅井 郁也 氏 ご担当者の役職名は、インタビューを実施した2019年11月時点のものです。 Topics 内部監査/コーポレートガバナンス データ、分析とビジネスインテリジェンス