Risk Oversight vol.45 リスク管理と危機管理の統合 危機管理は、有効なレピュテーション管理の一要素です。 世間的に評価の高い企業ですら、時に想定外にさらされ ることもあることから、突然・想定外の事象に対し、迅速か つ効果的に対応することで、レピュテーションを高めること もできます。しかしこのことは逆に、準備がなされていな いときの代償は高いことを意味します。 日本語版PDF 英語版PDF Topics 取締役事項 主要な考慮事項 将来事象の発生可能性・影響の重大性の評価に基づい て作成される伝統的なリスクマップ、ヒートマップ、リスクラ ンキングの問題点の一つは、企業にとって準備度を改善 しなければならないのはどこかを特定するのに役立たな いことにあります。これら伝統的なアプローチは、企業の リスクの概観を示すには有用ですが、極限的な事象の 発生に対してどのように対処すべきかについてはほとん ど何も示唆しません。むしろ、伝統的なリスクマップに頼っ ていると、「発生可能性小・影響の重大性大」のリスクに ついて、発生の可能性が低く、過去に前例がないという 誤った安心感から、これらリスクを軽視する結果になりか ねません。しかしながら、これらの事象こそが、発生した 場合、企業に最大級の影響を与えることになりかねませ ん。したがって、この影響を有効に管理するため、プロア クテイブな準備こそが不可欠です。 プロアクテイブなアプローチを行うために、リスク評価プロ セスには以下の要素を検討する必要があります。 事象の影響の速度、(すなわち、徐々に顕在化するの か、突如顕在化するのか、また、バリューチェーンの重 要構成要素が不意に失われたりするか) 事象の影響の継続性、(すなわち、報道の影響を含 め、企業に対して事象の影響が継続する期間) 企業の対応性、(すなわち、壊滅的事象を含め、企業 が事象に対応する包容力) 壊滅的事象の及ぼす結果及び企業の準備度を考える 上で、事象の発生可能性は上記3要素と比べて重要性 は小さいといえます。遅かれ早かれ、どの企業も危機に さらされることがあるのであって、どんなに有効なリスク管 理を実施してもこのことは避けられません。「危機的事 象」はリスクの極端な形での顕在化に他なりませんから、 危機管理は特に影響速度大・継続性大・準備度小の事 象に焦点をあてたリスク評価の延長線上にあります。場 合によっては、事業セグメントの廃止、主要プラントの閉 鎖・移転、従業員の解雇等、自身の行動によって危機が 生じうることを、経営者は知っているかもしれません。 もし危機管理チームが存在しないか、または潜在的な危 機への対応の準備をしていない場合、突然の想定外の 事象に迅速に対応することは事実上不可能です。会議 では火を消すことはできません。したがって、リスク評価 プロセスは準備が不可欠な領域を特定するように設計さ れていなければなりません。オペレーションプロセスを改 善することによって、特定された領域のいくつかのリスクを 防止、あるいは大きく軽減することも可能かもしれません。 また他の分野では、非常時になって慌ててではなく、平時 から代替的な対応方法や、ベストシナリオ・最悪シナリオを 検討しておくことが必要でしょう。 危機への対応準備度を改善するために、経営者は、役 員、事業部長ならびに人事・財務・業務・IT・広報・法務の 職能部門長からなる、危機に対する迅速対応コミュニ ケーションチームを設置することが求められます。必要に 応じて、適格な外部の危機管理コンサルタントも活用する 余地があります。このチームは、危機発生時に企業を代 表してメディアに対し、または内部の従業員に対してや外 部の公の場において情報発信できるように訓練をうけた 人たちに権限を与えておくべきです。また、危機対応計 画は、情報の透明性、直接的対話、頻繁なコミュニケー ションおよびソーシャルメディアの有効活用も検討すべき です。これら情報発信の目的は、従業員、一般大衆およ びメディアに正確な情報を提供し、誤った情報が流布し ないようにすることにあります。情報発信の内容は、犠牲 者に対する哀悼の意、事実を調査して原因を究明する 姿勢、そして、当面の危機によるダメージの抑制ならびに 再発防止の意思等を含まなければなりません。最も重要 なことは、情報発信するだけでなく、危機対応チームの行 動が実際に発信した内容に沿っていることです。 迅速対応チームは、危機管理計画を策定し、これが定期 的に更新・点検され、情報伝達計画を伴っているか確認 しなければなりません。この計画は、広報・法務の点検を 経た上で、犠牲者の安全に対する懸念を表す声明を含 み、その間に対応チームが事実を調査し、再発生の可能 性を低減する措置をとるための余裕をもたらすようなもの でなければなりません。また、企業内外の最重要ステー クホルダーを識別し、危機発生時に連絡できる体制を整 備することも必要です。 他山の石、対岸の火事、ということわざがありますが、危 機は決してひとごとではありません。他社におきたことは 自社にもおきるものです。多くの企業は危機に備えてい ないとはいえ、突然・想定外の、影響の重大性大・影響速 度大・継続性大の事象に対する迅速な危機対応体制を 構築することは、経営者の責務です。絶え間ない危機に 対し、最大限の対応をすることこそが、企業の回復に不 可欠です。つまるところ、早期の準備によって企業の危 機に対応する能力が高まり、ブランドイメージやレピュテー ションの低下を防止し、法的制裁を軽減することが可能と なるのです。 取締役会の考慮事項 企業の事業の性質に伴うリスクに応じ、以下は取締役会 が考慮すべき事項です。 リスク評価プロセスは、企業の回復力を向上させる上で 危機対応計画が必要となる領域を識別できているか。 すでに危機対応計画がある領域については、迅速対 応コミュニケーションチームが設置され、緻密かつ定期 的に更新・点検されている危機管理計画が策定され ているか。危機管理計画は、対応チームが調査し、必 要な措置をとるのに十分な時間をもてるような情報伝 達計画を伴っているか。 プロティビティの支援 プロティビティは、企業がリスクを識別・評価し、リスクを管 理するための戦略・手法を導入する支援をします。プロ ティビティでは、企業がリスク評価プロセスを、危機管理を 含めて中核事業プロセスに統合する支援も実施してい ます。 全ての関連情報は こちらへ