海外子会社における内部統制文書化の効率的なアプローチ~親会社のガバナンスを発揮する~

〜親会社のガバナンスを発揮する〜

1. はじめに

企業活動のグローバル化により、多くの日本企業の海外事業収益 の割合が増加しています。それに伴い、海外子会社が新たに内部 統制報告制度(J–SOX、US–SOX、以下 SOXという)の評価対 象拠点となるケースが近年増加しています。また、会社法の内部 統制システム構築への要請や金融商品取引法の内部統制報告 制度により、日本企業の内部統制に係る取組は定着してきている 中、2014 年の改正会社法では「企業集団の業務の適正を確保 するための必要な体制の整備」が施行規則から会社法本体に格 上げされ、日本の企業グループの健全な運営にとって企業集団の ガバナンスの重要性が再認識されています。

このような状況の中、海外子会社に対するガバナンス体制を構築し グローバル経営を推進する企業もあれば、子会社の独自性を重視 し、概括的な経営方針の確認や予実管理を中心とした緩やかなガ バナンスを行っている日本企業も依然として多いのも事実です。本 資料では、新たに海外子会社においてSOX の導入を推進する際 のチャレンジと、効果的に親会社としてのガバナンスを発揮するため のいわゆるトップダウンリスクアプローチを提言します。

2.  新たな海外子会社へのSOX導入のチャレンジ

新たに評価対象に加わる海外子会社のSOX 導入実務において、 以下のような推進上の課題や内部統制評価の非効率が発生しや すくなります。 特に、M&Aにより新たにグループ入りした会社の場 合には、さらにそのリスクが高まります。

  • 経営者評価手続が遅延し、親会社担当者の現地出張が何度も 必要となった。
  • 経営者評価が適切に実施されず、監査人の内部統制監査にお いて経営者評価では特定されなかった不備が多数指摘され、短 期間での対応が必要となった。
  • 子会社でキーコントロールが膨大に特定されているが、子会社で 作成された内部統制文書が分かりづらく、どのコントロールを評価 対象外とすれば良いのか(キーコントロールの絞り込みの)判断 が出来なかった。
  • 報告された不備の理解のために、子会社と何度も確認を行う必 要があった。
  • 現地での取り組みがブラックボックス化し、監査人の内部統制監 査は終了したもの効率的で実効性のある取り組みが行われてい るのか確信が持てない。

SOX 導入に関する推進上のこれらの問題の多くは、時差や言語の 問題から親会社と子会社のコミュニケーションが不足するか、あるい は財務報告、内部統制、内部統制評価に関するノウハウが十分で ない現地担当者に対して、親会社が具体的な指示や確認を十分 に実施できなかったことなどに起因しています。 特に、導入作業の 初期に作成するフローチャートやリスクコントロールマトリックスといっ た内部統制文書の品質が適切でないことが原因となり、整備状況 評価・運用状況評価・経営者評価の取り纏めといった後工程にお いて、手戻りや追加確認といった非効率が発生し、スムーズなSOX 導入を妨げることとなった事例を多くみかけます。

また、内部統制文書の作成が実質的に子会社任せになっている場 合、文書の品質上の問題は、運用状況評価の段階や監査人の内 部統制監査の実施過程において露呈することになります。その多 くの場合は経営者評価の終了までに許される期間の短さや人的リ ソース不足を考慮し、内部統制文書の品質改善を抜本的に実施す ることなく、発生した個々の非効率事象に対症療法的に対応するこ とになります。2 年目以降においても、内部統制文書の品質改善 に取り組まない場合は、図 1のように不効率な評価活動を行わざる を得ないという悪循環が発生してしまいます。

3. 親会社のガバナンスを発揮する 内部統制文書の作成アプローチ

不効率の発生を防止し、効果的で効率的なSOX 対応を推進する ためには、経営者評価完了まで、緊密なコミュニケーションを通じて 親会社が子会社をサポートすることが重要です。特に、親会社から の具体的なインストラクションや確認などを通じて、経営者評価がス ムーズに実施可能となる内部統制文書を作成することが重要にな ります。

有効かつ効率的な内部統制評価を可能とするための内部統制文 書は以下の 3つの要件を備えている必要があります。

  • 勘定科目、リスク、コントロールそれぞれの関係が明確
  • プロセス全体を俯瞰的に確認できる(過度に詳細でない)
  • 評価が実施できる程度にコントロールの記載が具体的

子会社において内部統制文書作成に係る十分なノウハウを有して いない場合は、このような要件を備えた内部統制文書を作成するた めには、親会社の強力なサポートが必要となります。

親会社の内部統制文書作成に関するサポート方法として、各プロ セスにおける標準リスクとコントロールを親会社で設定した上で子 会社での文書作成を開始し、子会社は、一から内部統制文書を作 成するのではなく、親会社が設定した標準コントロールに相当する 業務を特定し文書を作成するというアプローチがあります。

このアプローチは、以下の点において優れています。

  • 作成担当者の習熟度への依存が少なく品質が安定する。
  • 子会社での内部統制文書作成のための工数を削減できる。
  • 標準コントロールと実際の業務を比較することにより整備状況の 評価が容易となる。
  • リスクと勘定科目の関連が明確なため、不備が発生した場合の 影響度を把握しやすい。

また新規対象拠点に留まらず、グループ各社で同様のアプローチ で内部統制文書を作成した場合には、共通のリスクに対するコント ロールの実施状況を比較することができ、子会社間の内部統制の 成熟度の比較が可能となるメリットもあります。また、グループ内の 人材が拠点を異動しても、各拠点における基本の内部統制の文書 やリスクコントロールが標準化されていると、その把握・引き継ぎも短 時間で可能となり、より多くの知識の体系的な蓄積につながります。 多くの拠点において経験を積むグローバル人材を育成する上でも、 そのようなガバナンスが効いた仕組みは大いに貢献します。

4. 最後に

親会社の「財務報告に係る内部統制」という法的要請は、海外子 会社に説明・協力依頼しやすく、親会社のガバナンスの姿勢を示す 良い機会ともいえます。親会社がグループ横断的にコントロールの 実施状況を確認するアプローチの採用は、グループガバナンス基盤 構築への重要な第一歩となります。

このようなアプローチは、会社法の企業集団の内部統制システム の要請もいっそう強く再認識されるなか、SOX の枠組みを活用し、 贈賄やカルテルなどのコンプライアンスリスクをはじめとした財務報 告以外の重要リスクに対してもグループ共通の標準コントロールを 設定し、その子会社での実施状況につき定期的にモニタリングする ことが出来ます。

これから海外拠点への SOX導入を実施される場合に限らず、既存 の海外拠点でのSOX 対応が表 1のチェック項目に該当する場合や、 表 2に記載したような財務報告以外の内部統制のグループ各社へ の展開を計画されている場合は、親会社のガバナンスを発揮するア プローチでの内部統制文書の見直しを検討されることをお奨めします。

プロティビティの海外子会社における 内部統制報告制度対応支援

プロジェクト管理支援

現地評価者、現地被評価者、本社担当者間の円滑なコミュニケー ションをサポートし、計画、プロジェクト進捗管理、発見事項管理、現 地外部監査人との協議等、プロジェクト管理全般を支援します。

内部統制文書作成支援

海外拠点のSOX 対応について豊富な支援経験を有するバイリン ガルチームが、リスクコントロールテンプレートを用いた親会社主導 の文書作成を支援します。

内部統制評価支援

プロティビティのグローバルネットワークを活用し、現地の商慣習、言 語に精通した最適な評価担当者を派遣します。現地とのコミュニ ケーションについては海外支援経験豊富な東京事務所の専門家が 支援します。また、毎年の評価コストの最適化のために、インド事務 所を活用したオフショアモデルでのアウトソーシングも提供可能です。

内部統制評価支援ツール導入支援

内部統制評価の進捗や結果をタイムリーに可視化するツールを導 入することにより、各拠点で実施されている評価活動の効果的、効 率的なモニタリングの実現を支援します。

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