人事から戦略的人材アドバイザーへ:成功のための人員計画の再設計

新たな視点:組織が業績を上げ、適応し、成長するためには、新しい人材戦略が必要です。CHROとそのチームは、財務チームが活用しているような、データ主導型で将来を見据えた財務計画・分析(FP&A)アプローチの人事版を導入する必要があります。

重要なポイント:この手法の導入により、職務毎の役割や組織構造を抜本的に見直す必要が出てくる可能性があります。

実現に向けた課題:「空席となったポジションを埋めるために誰かを雇えばいい」という従来の考え方では、今日の人材不足問題を解決することはできません。

解決のための手段:スキルの観点から人員計画と人材予測を行い、役割の再設計、プロセスの自動化、より低い職位の担当者へのタスクの再分配を支援するテクノロジーソリューションを導入する必要があります。

結論:この新しい手法は、財務面でも大きなプラスの影響をもたらします。

以下で詳しく説明します。

組織が業績を上げ、適応し、成長する能力は、2つの要素に左右されます。それは人とデータです。人事リーダーは、人を活用することで、データの価値を最適化することができ、例えば、現在と将来の戦略目標の達成を推進するスキルを把握して、強化することができます。

この取り組みには、従来の人員計画アプローチにとどまらず、職務や組織構造の根本的な再設計にまで踏み込んだ新たな人材戦略が必要です。この見直しのためには、財務チームが活用しているデータ主導型で将来を見据えた財務計画・分析(FP&A)アプローチの人事版を、最高人事責任者(CHRO)とそのチームが導入することが求められます。財務チームと人事チームの連携を深めることで、スキル関連のプランニング能力を促進することができます。

生成AI、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の発展、構造的な人材不足、地政学的な不安定さなど、いままでに例が無いようなマクロ要因の集中的な変化が起きており、それがさらに短期的なプレッシャー(経済の不確実性、取締役会によるコスト最適化の要求など)と組み合わさり、CHROとHRビジネスパートナーは、取締役会、経営幹部、その他の事業部門に対する戦略的な人材アドバイザーとして機能することを否応なく迫られています。

この役割を十分に果たすために、人事リーダーは、労働力や仕事の進め方を再考し、職務の役割を再設計し、組織の有効性を測定・管理するために適切な分析と主要業績評価指標(KPI)を導入し、人材とスキルに関連する新たな予測とシナリオプランを策定する必要があります。

要約すれば、すべての人事リーダーは、現在および将来の人材が、組織としての現在および将来に向けた戦略的優先事項と目標達成に寄与するために、データと分析を活用した人材戦略を必要としているのです。

スキルのMRI(精密調査)を実施する

ゴールドマン・サックスによれば、生成AIの飛躍的発展により、今後10年間で世界の企業の生産性が1.5%向上する可能性があるということです。しかし、すべての企業がそのパフォーマンス向上を享受できるとは限りません。生成AIツールやRPA、その他の先進技術の価値を最適化するには、業務設計に関する新しい考え方と、役割の設計に関する新しいアプローチが必要です。

このようなイノベーションを実施することへのプレッシャーは高まっています。投資家と取締役会は、短期的な景気変動に関係なく収益性の改善を期待しています。最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)は、組織全体にわたってコスト最適化の改善を求めています。加えて、人口動態の現実と技術革新の急速なペースに結びついた長期的な人材不足は、旧来の人員計画アプローチ(概してバラバラで、定義が不明確なもの)の見直しが必要であることを意味します。

今日の人材不足の問題は、「空席となったポジションを埋めるために誰かを雇えばいい」という今までの考え方では解決することはできません。例えば、データサイエンティスト、正看護師、シニアDevOpsエンジニアといった需要の高い人材は、単純に採用市場で簡単には見つかりません。さらに、これまでの人員計画は、長期的なビジネス戦略に沿ったものではなく、個々の部門やビジネスユニットのニーズによってサイロ化され、推進されてきた可能性があります。本来であれば、長期的なビジネス戦略に沿ったものとするために、日々の活動に新しいテクノロジーを取り入れることが含まれるべきです。

スキルの観点から人員計画と人材予測を行う必要性は、かつてないほど高まっています。幸いなことに、AIを活用した人材インテリジェンス・ツールや人員計画・設計ソフトウェアといった新しいテクノロジーソリューションが、絶好のタイミングで市場に登場しています。これらのツールによって、人事チームは、組織内に存在するすべてのスキルについて、より正確で詳細なリアルタイムの情報を得ることができます。包括的なスキル情報の把握により、より正確な人材予測とシナリオプランニングを促進し、ビジネス戦略に従って人材を強化するために分析された戦略の財務的影響をより深く理解できるようになります。

この取り組みによる財務面への影響は大きなものとなる可能性があります。たとえば、病院経営を例にとった場合、看護師の平均報酬が急上昇する中で、ある医療機関が125人の看護師を採用する場合に、損益にどのような影響が出るかを考えてみましょう。医療提供者が現在担っている看護の役割において必要なタスクやスキルをすべて洗い出し、分析し、テクノロジーを導入することで、組織は、以下のような観点から役割を再設計する好機を得ることができます。

  • 正看護師が行っている、どのタスクやプロセスを自動化できるか。
  • 准看護師や認定看護助手などに移管できる業務として、何があるか。
  • 准看護師を、特定の業務をこなせるようにスキルアップさせることができるか。
  • 認定看護助手は、重要な活動として、どの業務に時間と専門性を割くべきか。

このような問いを検討することで、より費用対効果の高い職務構造とワークフローを設計し、新規看護師採用数を125人から75人、あるいは50人に減らすことが可能となります。このような検討を組織全体の何十もの役割にわたって繰り返せば、財務的に大きな利益を得られる可能性があります。

人材予測とスキル・モデリング

こうした成果を得るには時間がかかるため、スキルアップや業務の再設計には先行投資が必要です。このため、人事と財務の協力と連携は極めて重要であり、お互いにとって有益です。財務チームの財務計画・分析(FP&A)に関する知見は、人事チームが人材予測や関連する財務的な分析に活用できる客観的な教訓や洞察を与えることができます。人事チームがスキルや人材ニーズに関する将来を見据えたアセスメントを実施することで、CFOによるシナリオプランニングを強化することができます。

個々の人材戦略は、組織のビジネス戦略において特有のスキル要件に沿ったものでなければなりませんが、以下の活動を通して人員計画をアップグレードしていくことが必要です。

  • 事業戦略の理解:多くの企業の業績が人的資本の質にますます依存するようになっており、戦略目標が頻繁に変更される中で、人材戦略が事業戦略と整合し、常に歩調を合わせていることを確認することが一層重要となります。
  • 「ローリング人材予測」の策定:多くの財務計画・分析チームは、「ローリング予測」と呼ばれる継続的な見直しの仕組みを導入しています。ローリング予測は、過去データと予測データを組み合わせて、今後12ヶ月を超える期間の将来の業績を予測し、新しいデータに基づいてその予測を継続的に更新するものです。人事チームも同様のアプローチを展開し、その予測は、人員数だけでなく、戦略的な事業目標を実行するために必要なスキルに焦点を当てる必要があります。
  • 複数のシナリオのモデル化と、財務的影響の分析:財務チームによる、収益性とリスクを考慮したシナリオプランニング活動は、人材戦略と並行して行われます。さまざまな外的要因(賃金の上昇など)や戦略的変化(生成AIへの投資など)が組織のスキルニーズに与える影響をモデル化しておくことで、人事リーダーは将来のスキルニーズを特定し、さまざまなシナリオの下での財務的影響を定量的に把握することができます。
  • 組織の有効性の測定、モニタリング、推進:予測とシナリオプランニングを推進するために、高度なスキル分析とKPIを導入することで、さらなるメリットがもたらされます。人事チームは、これらから得られる洞察をモニタリングすることで、組織の有効性、および自社の人材が戦略目標をどの程度達成しているかを把握することができます。

このアプローチは、ほとんどの企業が従来行ってきた人員計画の立て方、つまり、年単位で、主として人員数に焦点を当てた方法とは大きく異なるものです。しかし、マーケットの現実とステークホルダーの期待を考慮すると、将来を見据えた新たな人材戦略と人員計画は、人事チームにとって緊急に検討すべき課題です。

(2024年9月9日)

英語版ブログ「From HR to Strategic Talent Advisers: Redesigning Workforce Planning for Success」へのリンクはこちら

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